タイトルからして、「今の医療を全否定する本か」と思いつつ手に取ったのだが、イメージに反して〈主に経済的な面からアプローチすることで、今の日本の医療の現状・問題点を捉え〉た一冊だ。
著者は、医師、かつジャーナリスト。40オーバーの“元男の子”だと、新日本プロレスの富家リングドクターといったほうが、通りがいいだろう(今も続けていらっしゃるようだ)。
病院が変わると同じような検査を受けたり飲み残しの薬があったりと、誰しも「無駄なんじゃないの?」と思う場面をいくつも経験しているだろう。本書では、データに基づきつつ、医療の無駄や、おかしな実態を明らかにしていく。
例えば、人間ドック。最近会社がうるさくなったので、毎年受けるようにしているが、毎度、何らかの数値が悪く、「不健康なんだ」と毎回、落ち込んでしまっていた。
ところが、日本人間ドック協会の調査によれば、〈全項目で「異常がなかった人」の割合はたったの7.2%です。つまり、92.8%の人がなんらかの「異常がある」ということになってしまったのです〉という。“ほとんどの人”が健康じゃない、レベルだ。だからこそ、50代以上の人が集まると、健康数値の話題ばかりになるのだろう。もっとも、人間ドックは40代以上が中心とは言え、そこまで不健康な人がいるというのもおかしな話である。
14年に高血圧の基準が緩めに変わって、ちょっとした騒ぎになっていたが、驚いたのは薬物治療を受けている人の数。〈日本では70歳以上の方の降圧剤服用率は51.5%にも達しています〉という。古い基準の境界線ギリギリで高血圧と診断され、薬を飲んでいた人は、基準が変わった後どうしたのだろうか?
■よく吟味せずに透析患者に認定
少し前に長谷川豊アナウンサーが「人工透析患者は、全員実費負担に」とブログで発言して炎上していたが、日本は人工透析を受ける患者が32万人と世界有数の多さであるという。
たしかに本人の不摂生が原因で人工透析を受けることになった人もいるだろう。しかし、本書が指摘するように、〈本当に人工透析が必要かどうかを吟味せずに、透析患者として認定してしまうケースが後を絶たない〉という点も見過ごせない。
そういえば、新米記者のころ、古参のジャーナリストから「新薬が出ると、関連する病気が増える」と聞かされて、「冗談でしょ?」と言った記憶がある。しかし、本書で数々のデータや医療機関の儲けのカラクリを見せられると、「多くの人が検査で『不健康』のレッテルを貼られ、通院・治療しているのでは?」という疑念も湧いてくる。
冒頭にも書いたが、著者はすべての医療を否定しているわけではない。必要な医療は受けるべきというスタンスだ。もちろん誰しも無駄な医療は受けたくないし、適切な医療を受けたいだろう。
問題は素人(および我われのように中途半端に知識がある人)には、どんな治療が必要で、何が無駄な医療なのか、容易に判別がつかないところ。
医療情報も玉石混交だ。先日、DeNAが運営していた医療系サイト「WELQ」(ウェルク)が、科学的根拠がないトンデモ記事を乱発してサービス停止に追い込まれたが、ほかにもネット上には怪しげな医療情報が載っているサイトは数限りなくある。正反対のことがかかれた書籍も多く流通している。
結局のところ、「信頼できる医師の友人を持つ」が無駄な医療を受けないための、“相対的マシ”な策となりそうだ。(鎌)
<書籍データ>
富家孝著(講談社現代新書800円+税)