日本経済新聞社が「決算サマリー自動生成」というサービスを始めた。企業が発表した決算情報をもとに、人工知能(AI)が日経の所定の表現に合わせて文章を作成するという。実際にAIが書いたという記事を読んだが、あまり違和感を持たなかった。


「作成はすべてAIが行い、人は一切関与していない」というから驚きだ。ただ、決算発表に限らず、“プレスリリース”は最も記事作成が簡単であるため、新人記者の“練習”に最適だった。


 私自身、20歳代の時は1日何本もニュースリリース系の記事を“修行”として書いていたし、まずはニュースリリースをちゃんと記事にできることが記者として重要だと思っている。


 逆に言えば、新人でも書けるような内容を経験豊富な記者が仕事として書くのは、モチベーションが上がらない。職場に新人がいなければ、AIに任せたいと考える編集部は多いと思う。時間が空いた分を取材や創造性の高い記事を書くことに割けるからだ。


 AIの導入には、基本的に3つのプロセスがある。最初のステップは、「人間ができることの一部をAIにやらせる」ということだ。MRの日報の自動作成、経費精算、業務で使用するスマホやPCのQAなどをAIに移行させることなどが挙げられる。


 2つめのステップは、「AIが中心となり、万が一の時のために人間が介入する」ということだ。製薬企業のオウンドメディアなどにAIを搭載し、適切な回答が得られなければ、いつでもMRを呼んだり、コールセンターにつなげられるシステムである。有害事象に関連しそうな文言が“人工MR”に入力されたら、企業側からアプローチすることも必要だろう。


 3つ目のステップはよほどのことがない限り、「基本的にはAIのみ」というものだ。今回紹介したプレスリリースの記事化のような簡単なものはAIのみに任せられそうだが、創造性が求められたり、“相手がいる”ことを100%AIに任せるまでには時間がかかりそうだ。


 AIを導入することのデメリットも考えなければならない。それは、私が若い頃にニュースリリースの記事作成“1000本ノック”で鍛えられたような機会を、新人から奪うことにはならないか?ということである。便利なツールは、人間から「考えること」を奪うリスクもあり、人材育成を忘却させる魔力がある。


 人材を育成しながらAIを導入する。AIを導入しながら、人材を育成する。このことを忘れると、企業の成長は止まる。

 
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。