「白衣の天使」——。
看護師を語るときによく使われる、この言葉。患者に献身的につくすような女性(近年は男性も増えている)をイメージする人も多いようだ。
高校時代に入院したとき、深夜のナースステーションで、看護師たちのホンネをおおいに聞かされた(30年も前の話だが、現代だったら問題になりそうだ)。そのため看護師に対して幻想はない(当時はショックを受けた)。看護師だって人間なのだ。
昨今は、白ではなくカラフルな“白衣”を使用する病院も増えた。
『看護の質』は、看護師を取り巻く厳しい環境や就業実態、および医療の現場にせまった一冊である。
あまりの忙しさに患者の体に入っている管の汚れを見過ごす看護師、本来は医師が行うべき処置を行う看護師や准看護師、しばらく様子を見たほうがいい患者を強引に退院させてしまう病院……。本書は、生々しい現場の空気とそこで葛藤する看護師の姿を浮き彫りにする。看護師が天使になりたくてもなれない現実だ。正直、入院するのが怖くなった。
看護師不足の打開策と考えられるのは、医師や看護師以外にも、薬剤師や理学療法士、作業療法士といった、さまざまな医療専門職が、それぞれの専門性を発揮して患者に携わる「チーム医療」だ。本書でも、多くの成功事例が紹介されているが、一筋縄ではいかないようだ。
その原因のひとつが、医療界の〈絶対的なヒエラルキー〉だろう。〈医師なんて遠い雲の上の存在で話をする機会は滅多にない。医師から看護師へ、看護師から介護職への命令は絶対だ〉とはある介護職の弁。そのため医療現場には、介護職が〈何か意見を言えば介護だろうとなじられる〉といった不条理が存在する。これではチームが機能しない。
■矛盾をはらむ特定看護師制度
鳴り物入りで始まった特定看護師の制度もさまざまなリスクや矛盾をはらんでいる。この制度が誕生したことで、38の特定行為について、研修を行った看護師が医師の指示(手順書)のもと医療行為ができるようになった。
「7〜8割が赤字」と言われるほど、病院経営は厳しい。コストカットを狙う経営側が、この制度を使って看護師に多くの医療行為を行わせるところも出てくるはずだ。そして何かミスが起これば、特定行為を行った看護師が責任を負わされる可能性も高まった。
一方、研修を受けていなくても、〈グレーゾーンの医療行為全般について医師の指示があれば看護師が行っていいとされている〉という。
これから高齢化のピークを迎えるにあたって、難しい患者は増え続ける。あるべき看護の姿を考えれば、看護師が多いにこしたことはないが、医療費の財源はますます逼迫していく。これからも医療費の削減を狙った医療制度の改変は続くだろう。まだまだ制度に翻弄されそうな「看護の質」を向上させるのは、容易ではなさそうだ。(鎌)
<書籍データ>
『看護の質』
小林美希著(岩波新書840円+税)