医療技術やアンメットメディカルニーズを満たす医薬品の開発が進んだおかげで、治療の選択肢が増えた。私がこの業界に入った23年前から考えても、隔世の感がある。


 医療提供者側は、常に新しい医療技術や新薬の情報に触れていなければ、患者側から「なぜ、新しい治療法を私に(紹介)してくれなかったのか?」と責められたり、訴えられるリスクも考えられる。


 例えば、福島県保健福祉部が2005年1月にまとめた「医療相談事例集」には、インフォームド・コンセントにおいて、判例で確立されている一般的要件として、次の“五箇条”が示されている。


①病気等の名前、症状

②予定する治療等の内容

③治療等のメリット、デメリット

④治療しない場合の見通し

⑤他に選択可能な治療法がある場合の内容と利害損失


 つまり、医療提供者側がこの五箇条を実行しなければ、訴えられたら負ける可能性が高く、患者側がこの五箇条を知る権利があるというわけだ。


 このインフォームド・コンセントの五箇条の⑤は、他の治療選択肢を提示することの重要性を示したものだが、昨今のように薬剤の高額化が進むと、逆に“古い治療”“古い薬”と新しい治療との経済的アウトカムの格差について説明し「インフォームド・チョイス」をしてもらう必要が出てくるだろう。


 先日、講演でご一緒させていただいた糖尿病の専門医は、「近い将来、患者さんから『なんで安い負担額の薬を紹介してくれなかったんだ』と訴えられる医師が出てくる」と指摘していた。


 長年、自社製品をご愛用いただいた医師が、負担額の問題で患者から集団訴訟された!なんてことは起きないかもしれないが、可能性はゼロではない。


 特に自己負担が高額な薬剤を担当するMRは、“インフォームド・チョイス”を意識した情報提供・収集活動が求められる。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。