「公園内で、児童(男)が遊んでいたところ、男に声をかけられ、逆上がりを教えられた」——。知人が住む世田谷区の“不審者情報メール”に、こんな情報が届いたという。


 よその子に逆上がりを教えたら不審者にされてしまう時代になった。昭和の時代にあった「コミュニティ」という概念は、すっかり失われてしまったようだ。


 多職種連携や在宅医療・介護という側面が注目されがちな「地域包括ケア」だが、実は、コミュニティを“復活”させる役割も担っている。


 東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典研究部長は、「外堀(住民・地域資源)がなく、内堀強化(多職種連携)だけでは地域包括ケアは“落城”する」と指摘している。つまり、医療従事者や介護従事者だけではなく、「元気な高齢者」や「市区町村」の積極的な介入・参加がなければ、地域包括ケアという免疫システムと継続的に維持することはできないというわけだ。


 藤原氏によると、「地域包括支援センター」を最前線の砦と位置づけ、アウトリーチを積極的に行って介護予防・孤立予防を促進することが求められるという。もちろん、市区町村(大将)が先陣をきらなければ全体の士気は消沈してしまうと述べている。


 時代の先端をゆく雑誌『Wedge』3月号では、「成年後見のススメ」が特集されている。そのなかで、高齢者の独居世帯率が政令指定都市のなかで最も高い大阪市の「市民後見人制度」が紹介されている。


 養成講座を受講して市民後見人となった231人は、無報酬で活動を行っている。彼らを弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職がサポートしているという。まさに、“外堀”をしっかり強化しているわけだ。


 このような市民後見人制度の他にも、地域に貢献してくれた高齢者に、商店街でしか使用できないクーポンなどをプレゼントして、高級な牛肉と引き換えられるといったインセンティブを与えることも考えられるだろう。今後は、高齢者の“自己重要感”を高める対策が各地域に求められる。それに失敗すれば、地域は“暴走老人”であふれることになる。


 いずれにしても、「地域包括ケアとは“コミュニティ”を取り戻すこと」である。医療と介護の連携だけでは、それは実現しない。あなたの担当エリアの外堀をどのように強化すべきか。ぜひ考えてみてほしい。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。