『がんで死ぬ県、死なない県』とは、なかなか刺激的なタイトルの一冊である。


 出身地や今住んでいる場所の特徴は気になるもの。県民性や地域別の食習慣に触れた書物は珍しくないが、本書は「がん」の傾向を都道府県別に明らかにした、という点で目新しさがある。


 ようやく集まるようになった「地域がん登録」のデータをもとに、松田智大・国立がん研究センターがん対策情報センター室長が都道府県別の傾向を分析。罹患率をベースにした「がんのかかりやすさ」、死亡率をベースにした「亡くなりやすさ」を都道府県別に見ていくことで、生活・食習慣の“お国柄”や地域の医療体制などを浮き彫りにする。


「がんのかかりやすさ」を考えるとき、しばしば「わが家はがん家系」などという表現が使われるが、〈遺伝要因に起因するがんは少なく、全体のおよそ五%以下〉なのだという。


 実際、本書に取り上げられている研究によれば、〈日本人がハワイに移住して当地の白人と同じような生活を送ると、がん罹患の傾向も彼らと似てくる〉ことを示唆する統計データが得られたという。


 つまり、他の都道府県と比べて、がんの死亡率が低くて、罹患率が高ければ、〈食生活などの生活習慣や環境要因に改善すべき点がある〉という見方ができる。生活習慣として、わかりやすいところでは、本書でもたびたびやり玉にあがる、塩分の取りすぎや、喫煙率の高さ、酒の飲みすぎだろう。


 例えば、全国ワーストのがん罹患率となっている秋田県では胃がんにかかる患者が多いが、〈塩分摂取量が密接に関係〉しているという(もっとも、がん検診を積極的に行っていることから、がんが発見されやすく、統計上は他県より際立って患者数が多く見える可能性についても指摘されている)。そういえば、秋田出身の友人はいつも濃い目の味付けが好きだった。


 一方、別な県と比べて、同じ罹患率なのに死亡率が高い(=亡くなりやすい)なら医療体制に改善の余地がある。


 死亡率が低いのが長野県。イメージとは少し違うが、そもそも長野県は〈がんに限らず病気に「かかりやすい県」〉である。各種がんの罹患率は高めだ。しかし、〈際立ってがんの死亡率が低い〉、がんで「亡くなりにくい県」だという。はっきりした根拠はわからないようだが、〈長野県民は医療との距離感が近い〉など、地域の特徴を洗い出していくことで、あるべきがん医療の姿が見えてくるのかもしれない。


■府内格差が大きい大阪


 がんの罹患率や死亡率は、社会の問題も明らかにする。


 大阪府の場合はさまざまな分野で〈府内格差〉が問題になるが、がんの世界でもしかり。罹患率や死亡率が、〈比較的裕福な人が住む地域では問題にならず、経済的に貧しい地域でははっきりと悪い〉という。


 第三章では、各関係者が取り組むべき課題を取り上げている。行政の役割として著者が注目するのは、「亡くなりやすさ」の原因について仮説を立てて検証すること。そのために〈がん登録のデータは、様々な課題を発見し、改善していくための材料になる〉という。


 遅まきながら、の感もあるが、昨年1月からは、国がデータを一元管理する「全国がん登録」の制度がスタートした。今後はがん患者の実態を〈より正確かつ迅速に把握できる〉ようになるはずだ。さらなる研究・がん対策の深化に期待したい。(鎌)


<書籍データ>

『がんで死ぬ県、死なない県』

松田智大著(NHK出版新書740円+税)