「働き方改革」が今年の流行語大賞の最有力候補だろう。朝7時半から夜11時まで毎日15時間以上働き、ベストセラー作家になることを夢見ていた私の20歳代と比較すると、めまいがするほどのギャップを感じる。


 MRの働き方にもメスが入るという声を製薬企業関係者から耳にするようになった。各社のサイトに公開されている“MRの1日”の多くが、朝8時に卸か得意先に「直行」して夜8時に業務終了という流れになっている。いわゆる「みなし労働」だからOKという判断だが、この「長時間労働」が就活生の“MR離れ”に悪影響を及ぼしている可能性もある。


 いずれにしても勤務時間の短縮の流れが進んでいくことは間違いない。キーワードは「業務の効率化」になるだろう。3月4日に開催された日本医療マネジメント学会第10回大阪支部学術大会の特別講演では、トヨタ生産方式をベースにした改善ノウハウについて紹介された。


 54秒。1台の自動車を組み立てるのにかかる時間である。これが60秒になると、毎日莫大な残業コストが発生する。そのコストを自動車の価格に反映させると、車が売れなくなる。だからトヨタは1秒にこだわるという。


 オージェイティー・ソリューションズのシニアコーディネーター浅井司さんは、同社が仙台厚生病院で実施した「カイゼン」の取り組みを紹介した。業務の流れをすべてビデオで撮影し、「15分の動画を3時間かけて分析し、コンサルタントとスタッフが改善の話し合いを行った」そうだ。新たに完成した作業マニュアルに基づいて行動した結果、医師1人当たりの月間検査数が大幅に増加したことに加え、医師や看護師の残業時間も減少したという。人員を増加することなく患者(売上げ)が増えて、労働時間が減少したというわけだ。


 分析には、「要素作業時間解析表」が使われている。誰が何にどれくらいの作業時間をかけているのかを見える化し、ムリ・ムダ・ムラを排除していくというものだ。


 MRの1日をカイゼンコンサルタントが終日カメラで撮影して分析する日が来るのだろうか。いずれにしても、MR(の労働時間)を減らしても医師とのコンタクト時間が減少せず、売上げを上昇させる“マジック”がこれからの製薬企業には求められている。 


  …………………………………………………………………
川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。