日本の物流インフラが大揺れに揺れている。震源の中心はヤマト運輸とアマゾンだ。ヤマトはアマゾンをはじめとした、ネット通販企業から荷物量の急増で、現場の負担感が強まっているとし実に27年ぶりの値上げを取引先に求める方針だ。
もはや、これはヤマトとアマゾンだけの問題では済まなくなっている。ネット通販拡大が帰らざる河のなかで、物流崩壊を食い止めるにはネット通販をはじめとして、物流業者や小売業者など流通に携わる企業全体の問題なのである。宅配便に替わる機能の模索を本格的に始めざるを得ないが、いよいよドローンの出番か、それとも宅配ロッカーか、コンビニ受け取りか——。
ネット通販にとっては、商品をいかに効率よく早く顧客先に届けるかが生命線といえるが、実は米アマゾンは飛行船の“巨大な倉庫”からドローンを使って宅配する構想を米国で特許出願している。
あまりニュースにもなっていないが、アマゾンはいろんなことを試している。無人コンビニ「アマゾン・ゴー」の次は飛行船倉庫からのドローン宅配である。
アマゾンが提出した米特許商標庁の開示資料では、旅客機の高度より上空の約1万4000メートルに巨大な倉庫を搭載した飛行船を飛ばし、そこからドローンを発進させ、荷物を届けるという。荷物を届けた後は飛行船に帰艦せず、コストを抑えるために地上の物流拠点などに戻る仕組みという。
あらゆる可能性を視野に入れるアマゾンは、日本の流通業界の脅威となっている。
宇宙船のドローン構想はとても日本では許可されそうにないが、もはや、日本でもありとあらゆる仕組みを検討せざるを得ない物流の状況になっている。そして、トラックによる宅配便の代替として脚光を浴びているのはその実現性は別にして、やはり、ドローンによる宅配だろう。
当然ながらアマゾンでもドローンの実証実験を米国や英国、そして日本でも始めている。「アマゾン・プライム・エアー」と呼ぶ、この実験を昨年、英国で実施した。注文からわずか13分で、目的地にポップコーンを納品したと報道されている。
翻って日本ではどうか。市街地での飛行は規制されており、また障害物があまりにも多すぎる現状から困難だとしても、離島や過疎地へのドローン輸送は有効だろう。
実際、日本でもいくつか実験が行われている。国家戦略特区に指定された千葉市(幕張新都心)はとにかく、福岡市(能古島)、愛媛県今治市(大三島)、徳島県那賀町などがそれだ。島国の日本では有人離島も多い。直線を飛ぶドローンでの離島や過疎地への配送はかなり有望視されている。
しかし、あの米国ですらドローンの飛行には規制が多いことを考えると、当面、物流崩壊を食い止めるのに現実的な選択肢は、物流全体の2割を占めるとされる再配達を減らすことだ。
なにしろ、ヤマトの値上げの背景にも、再配達が増えていることが引き金だ。このため、ヤマトと大口取引先との交渉では「正午から午後2時」の配達の指定時間から外すことや、会社から帰宅したサラリーマンやOLなどのニーズが多い「20時から21時」の時間帯を見直し、1時間枠ではなく、2時間枠にしたり、20時以降の再配達の中止などが検討されている。また、ヤマトでは法人向けの料金体系の導入も検討しているという。
ただ、多くのネット通販企業は「無料配送」や「即日配送」について見直す雰囲気はなさそう。そのため、アマゾンとヤマトなど大口の取引先との交渉は難航を極めそうだ。実は2015年から再配達の削減については政府でも検討会を開き、何度か削減の検討を行っている。しかし、物流業者だけでなく、コンビニや小売業を巻き込んだ検討会は足並みが揃わず、これといった成果を出していない。
また、AI(人工知能)を活用して宅配便の配達に自動運転技術の活用を視野に入れたプロジェクトを立ち上げ、2030年ごろまでにサプライチェーンをドローンや自動運転トラックなどでつないで物流を完全無人化する構想もある。
しかし、お役所のやる仕事を待っていても仕方がない。物流改革は“今でしょ”という局面なのだ。民間でやれることはやらないと、本当に物流崩壊が迫っている。
ヤマトは現在、関東、関西に200台にとどまっている宅配ロッカーを2022年ごろにまでに首都圏を中心に5000台を設置する予定だったが、計画を前倒して進める方針だ。
宅配の荷物受け取りロッカーでは日本郵便が「はこぽす」を郵便局や駅、スーパー、コンビニエンスストアに増設中だ。一戸建て住宅向けの宅配ボックスの開発も中小企業などでも相次ぐ。
ネット通販の無料配達や、即日配達はどこも競争上、引き返すことのできない施策だとすれば、それをヤマト一人に頼るのではなく、あらゆる場所やツールを使って、解決していくしかなさそうだ。(原)