竜頭蛇尾とは正にこのことを言うのだろうか。今年4月にスタートする地域医療連携推進法人である。これは医療機関間の機能分化・連携を推進することを目指しており、既に愛知県や岡山県などで導入に向けた動きが出ている。 


 しかし、制度化のプロセスを見ると、小粒化した感は否めない。元々は「非営利ホールディングカンパニー(持ち株会社)」など大上段に振りかざしていたのに、最終的には病床再編・削減を目指す地域医療構想を達成するための「一つの選択肢」と位置付けられるにとどまったためだ。 


 しかも、市民から見た制度のメリットが見えにくい。制度がスタートする段階で先行きを見通すのは難しいが、制度化のプロセスも見つつ、行方を考えたい。 


◇  地域医療連携推進法人の枠組み


 まず、制度の概要を確認すると、【図】の通りに病院や診療所など複数の非営利法人が参加する形で地域医療連携推進法人を結成。構成員で構成する社員総会が統一的な連携推進方針を決定し、参加法人の予算や事業計画を統括する。 


 法人に参加できるのは医療法人などの非営利法人。介護施設などを展開する非営利法人も加わることが可能だが、営利法人は参加できないとされている。 


図:地域医療連携推進法人の概要

出典:厚生労働省資料 


 そのうえで、地域の関係者も含めた理事会が共同購入や資金貸し付けなどの業務を執行し、市町村長や地元医師会関係者らが加わる「地域医療連携推進協議会」が社員総会、理事会に意見具申する仕組みとなっている。さらに、都道府県知事が地域医療連携法人を認可・監督するほか、理事長の選任には都道府県知事の認可を義務付けている。 


 法人設立のメリットとしては、地域で過剰気味な急性期を減らしたり、不足している回復期を増やしたりするなどグループ内での病床機能分化・連携が進められる点に加えて、①医療機器の共同購入、②人材教育の構築や人事一元化、③資金融通、④庶務業務の統一化によるコスト削減—などが挙がっている。 


 さらに、地域医療連携の枠組み構築に繋がる点として、グループ病院内の相談・紹介、患者情報や要介護者情報の一元化、統一カルテによる重複検査の省略、救急患者の受け入れ、退院支援・退院調整の円滑化、在宅医療・介護の連携などを挙げており、導入を検討している事例として、①地方公立病院を核とした連携(山形県)、②藤田保健衛生大を中心とした法人の連携(愛知県)、③統合再編成を目指した県立病院と民間病院の連携(兵庫県)、④岡山大学や岡山市民病院などが加わった連携(岡山県)、⑤地域の中規模民間病院による連携(同)—などの動きがあると伝えられている。 


◇  社会保障制度改革国民会議が契機


 しかし、当初に掲げていた目的と比べると、小粒化した感は否めない。制度化に至る一つの契機は2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書だった。報告書では、「医療法人や社会福祉法人が非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の推進に資するよう、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある」と指摘していた。つまり、非営利法人がホールディングカンパニーを結成し、医療提供体制を効率化する考えが示されていた。 


 さらに、報告書では検討すべき施策として、①医療法人が非営利性を担保しつつ都市再開発に参加できるようにする制度、②ヘルスケアをベースとした不動産投資信託(リート)を含めて、コンパクトシティづくりに要する資金調達手段の見直し—を掲げており、非営利法人のホールディングカンパニーが一部で営利事業に乗り出す必要性を指摘していた。 


 もっと踏み込んでいたのは同年12月の産業競争力会議医療・介護等分科会中間整理だった。ここでは「医療・介護等を一体的に提供する非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)の創設と関連制度の見直し」を掲げつつ、複数の医療法人と社会福祉法人を束ねる非営利ホールディングカンパニー型法人(仮称)を創設することを通じて、急性期医療から在宅介護、生活支援サービスなどを切れ目なく体系的に提供できることをメリットとして挙げていた。 


 言い換えると、非営利ホールディングカンパニーが医療だけでなく、営利事業を含めて介護や生活支援などに幅広く関わることを通じて、医療・介護・生活支援などを一体的に提供する地域包括ケアを進めることに期待感を示していたのである。 


 しかし、こうした営利重視の流れに日本医師会から物言いが付く。具体的には、医療機関が有機的に連携できるよう「統括医療法人(仮称)」制度を提案するとともに、①理事長は原則として医師とする、②参加法人は医療法人または社会福祉法人とするが、後者は病院、診療所または介護老人保健施設を開設している法人に限定、③地域医師会の代表が参加する「協議の場」で事業運営状況を評価する仕組みの創設、④利益配当は禁じる—などを求めることで、非営利性を維持しつつ地域医療構想を推進するための枠組みにとどめるよう主張したのだ。 


 結局、医療と介護を本格的に縦断する考え方は採用されなかった上、ヘルスケアリートなどの目新しい話は資料から消え、「地域医療構想を進めるための一つの選択肢」に限定されることになった。 


 しかし、日本医師会を悪者にするのは一面的な見方であろう。むしろ、この問題に対する厚生労働省の明確なスタンスが見えなかったことの方が問題ではないか。 


 実際、制度化を議論した「医療法人の事業展開等に関する検討会」の資料や議事録を見ても、既存制度を見直す必要性として、医療機関の再編・連携や国際展開など様々な論点が持ち出されており、全く整合性を感じられない。首相官邸や産業競争力会議、社会保障制度改革国民会議、経済産業省などのアクターが医療法人の大規模化や営利化、医療機関の連携・分化、医療の国際展開などを求めたのを受け、厚生労働省は主体性を持たないまま検討会を開催したのではないか、と勘繰りたくなる。 


 主体性を持っていない中で議論を進めたとすれば、目先の利害調整を図るために場当たり的な解決策に落ち着くのは当然の流れであり、そう考えれば竜頭蛇尾に終わったことも説明が付く。この結果、挙げられている様々な効果やメリットは上滑りしており、患者や納税者にとってもメリットが見えにくくなっている。そうした制度がどこまで有効に使われるか疑問と言わざるを得ない。 


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丘山 源(おかやま げん) 

 大手メディアで政策形成プロセスを長く取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。