「プレミアムフライデーに早帰りなんかしたら、他の日がもっと忙しくなってしまう」とぼやく、働き盛りの勤め人には無縁かもしれないが、平日昼間のジムは思いのほか盛況である。スタジオに入ると50代でも若手に思える昨今はコンディショニング系のプログラムが増え、ターゲットとする顧客が高齢者に移ってきていると肌で感じる。
◆「中年期以降の物忘れの改善」と聞けば
国が目指す健康寿命の延伸は、個人にとっても重要な願いだが達成は簡単ではない。内閣府が全国の60歳以上の男女6,000人を対象に行った『平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査』(有効回収数3,983票)で、「将来の日常生活への不安」第1位は「自分や配偶者の健康や病気のこと」(67.6%)、その具体的な内容としては「体力の衰え」(62.2%)が最も多く、次いで「認知症」(55.0%)が、「がん」(45.5%)を上回る数字となった。
そうした中で最近、「中年期以降の物忘れの改善」を効能・効果とするOTC薬が登場した。『キオグッド顆粒』(製造販売:松浦薬業、販売:ロート製薬、森下仁丹)だ。オンジエキスを成分とする単味の生薬製剤で、第3類医薬品に分類されている。2017年3月8日から森下仁丹の通販サイトで販売、薬局・薬店での発売日は4月22日とのこと。発表価格からは、1日あたり180円(税別)の計算となる。
個人的に少し気になっているのは、世間一般における「物忘れ」の定義が必ずしも明確ではないことだ。わが国では1994年に国立精神・神経センター(当時)が、認知症の早期診断と治療を目的に、全国に先駆けて「もの忘れ外来」を開設した。現在では、「もの忘れ外来」が広まり、ほぼ認知症外来と同義に理解されているように思う。しかし、ここで注意すべきは、「認知症=物忘れ」ではないことだ。認知症の症状は、中核症状(認知機能障害)と周辺症状(行動・心理症状;BPSD)に大別され、BPSDに対する有効性が確立された薬剤はない。中核症状には記憶障害のほか、見当識障害、失語・失行・失認などが含まれる。国内で承認された医療用医薬品の「アルツハイマー型認知症治療剤」も、その効能・効果は「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」といった書き方だ。
これに比べて「物忘れの改善」という表現はずいぶんクリアな気がするのだ。
◆第3類でも積極的な説明がほしい
この効能・効果は、厚生労働省による『生薬のエキス製剤の製剤販売承認申請に係るガイダンス』(平成27年12月25日付 薬生審査発1225第6号)に基づいており、参考文献の中には韓国の研究者がオンジ抽出物を用いて行ったRCT(治療群28例、対照群25例)が挙げられている。『キオグッド顆粒』の添付文書は既にPMDAのサイトに掲載されているが、インタビューフォーム等が整備された医療用医薬品とは異なり、開発の経緯をたどることはできなかった。
オンジ(遠志)は、ヒメハギ科のイトヒメハギの根を、芯を抜いて乾燥させたもので、サポニンを含み、鎮静、強壮、去痰の薬効を期待して、加味帰脾湯などいくつかの漢方製剤にも含まれている。その名のとおり「志を強くし、物忘れを治す」とされるものの、この物忘れとは「例えば忙殺されて疲労がつのり日常のことを忘れがちになる、強いショックで茫然自失となる、などの状態に近い」、また、利用方法として「間歇的に用いて刺激を与えることで病態の転換点とする」ことを挙げる専門家もいる。
西洋薬の補完あるいは西洋薬では治療が困難な病態への対応手段として漢方薬の役割が見直され、製剤の標準化やエビデンスの集積への努力がなされつつあるだけに、企業や薬剤師からの積極的な情報提供がなされることを望みたい(玲)。