「成し遂げるまでは、すでに成し遂げたかのようなフリをしろ」という意味である。私は講演する際、「日本一講演のうまいスピーカー」として振る舞い、講演後には「日本一下手くそなスピーカーだった」と反省することを繰り返している。
Fake it till you make itの“教科書”的な映画に『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(Catch Me If You Can 2002年)がある。同作は、実在した天才詐欺師フランク・W・アバグネイル・Jrの自伝小説『世界をだました男』をベースに製作されたもので、主演のレオナルド・ディカプリオが見事に、医師、弁護士、パイロットのフリをして小切手偽造などの詐欺を繰り返す姿を描いた。アグネイルは出所後、詐欺防止などのコンサルタントとして大成功したという。
3月31日に鹿児島に行き、ブログ「薬局にソクラテスがやってきた」で有名な薬剤師、山本雄一郎さんの『薬局で使える実践薬学』出版記念講演会に参加した。同書は500ページにせまるボリュームで6264円という高額にもかかわらず、発売数日で増刷が決まったという。
山本さんは“薬局薬学のエディターになる”と決意してからブログなどで情報発信を続けてきた。元MRということから「医療資源となるMR」を見極めながら情報交換をMRとしているそうだ。「どこを見ているMRなのか?」をチェックし、患者を見ていないMRとは(心の)距離を置いている。
そんな山本さんも全国の薬剤師からの期待に実力以上に課題評価されて「メッキがはがれるのが怖い」と感じることがあるという。しかし、彼はニーチェの名言を用いながら、いつか誰かの“一本の矢”になるために「装い続けること」を最近決めたそうだ。
「君は君の友のために、自分をどんなに美しく装っても、装いすぎるということはないのだ。なぜなら、君は友にとって、超人を目ざして飛ぶ一本の矢、憧れの熱意であるべきだから」(ニーチェ『ツァラトゥストラ』)
山本さんは講演の最後に「本を読んでくれて薬学が楽しいと思ってくれたらうれしい」と話していた。彼は多くの若手薬剤師の“一本の矢”になるためにFake it~を続けるだろう。
新社会人の皆様、おめでとうございます。まずは、山本さんのような憧れの存在となる“一本の矢”を社内外で見つけてください。そして、30代になったら、ほかの誰かの“一本の矢”になれるように、Fake it~を続けてほしいと思います。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。