「忖度」という言葉が今年の流行語大賞にノミネートされそうな勢いだが、「空気を読む」という肯定的な響きも感じられるこの言葉で、昨今の権力周辺の状況を説明することに、いささか抵抗がある。
ネポティズム(縁故主義)、えこひいき、媚びへつらい、ごますり……。そんな言葉こそ最近の世相にはふさわしい。誰にでも分け隔てない気遣いなら美風だが、「自分の親分とそのお友達にだけに向けた特別なサービス」は、不公平極まりない醜悪な行為だ。結局は隣国で罷免された女性大統領のケースと同じ、いかにもアジア的な後進性を問われる話なのである。
メディアにも“忖度”はつい最近まで溢れていた。NHKはしばらく、森友問題を一切報じようとしなかったし、ワイドショーも初期の段階では、ピリピリした異様な緊張感の中でこの話を取り上げた。だが、籠池氏という「KY(空気を読まない)」なキャラクターの出現で、ひとたびタブーが崩されると、“みんなで渡れば怖くない”とばかりにメディアも追随し、“無言の圧力”の神通力は急速に失われ始めたのである。
週刊誌報道にも、その流れは見られる。週刊現代は先に“もうひとつの森友問題”とささやかれる加計学園グループの大学獣医学部設置問題を取り上げ、同グループの順正学園から損害賠償請求の訴訟を起こされたが、今週も果敢にその続報を掲載。『学校法人「加計学園グループ」のトップは総理と30年来の付き合い 安倍の「本当のお友達」に血税176億円が流れた』と報じたほか、『何か勘違いしていませんか 安倍昭恵の「万能感」が気持ち悪い』と夫人問題も取り上げた。
週刊新潮は『「安倍昭恵」と大麻』というテーマで6ページの巻頭特集を展開。文春に至っては、東芝の原発事業失敗と政権の接点を掘り下げ、『東芝“原発大暴走”を後押しした安倍首相秘書官今井尚哉』というスクープを放ったうえ、『籠池問題で“逆ギレ”菅も二階も止められない 安倍晋三は「裸の王様」になったのか』という政権の内幕記事も掲載した。週刊朝日は、あの菅野完氏の「緊急寄稿」として『アッキード事件の核心に迫る 「籠池ノート」の中身』という特集記事を組んだ。
政権の支持率は低下したとは言え、まだ50%前後と安定しているが、何にせよ戦後70年近く、当たり前のように維持されてきた“政権を自由に批判できるメディア環境”が、ここに来てようやく回復しつつあることは喜ばしい。コロコロと首相が交替した時期への反動から「強いリーダー」を待望するあまり、うかつには政権批判すらできなくなりかけていたここ2、3年の空気は、あまりにも異常なものだった。
ゴシップ分野でも文春砲は相変わらず快調で、先週の渡辺謙の報道に続いて、今週は『香取慎吾20年恋人と“謎の少年”』というスクープを放っている。隠し子かもしれない、とほのめかすニュアンスで、ハワイ旅行や後楽園遊園地で香取と親しく過ごす少年の存在を暴く内容だ。
週刊新潮は、ジャーナリスト大江舜氏の『団塊絶壁!』という集中連載を始めた。初回は「ボケへの恐怖」という見出しのもと、さまざまな認知症患者の悲惨な実例が綴られている。この筆者自身、1948年生まれの団塊の世代である。一見、対象とは少し距離を置く客観レポート風のタッチだが、筆者はこのシリーズを今後、自身や身近な同世代に降りかかり始めた出来事として、書き進めてゆくのだろうか。初回を読むだけでは、その視点・立ち位置はまだ判然としない。
………………………………………………………………
三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。