「ドリルを買う人が欲しいのは“穴”である」(セオドア・レビット)


「レブロンの工場では化粧品をつくっているが、店舗で売っているのは“希望”である」(チャールズ・レブソン)


 では、処方箋を持って薬局に来る患者さんが本当に欲しいものは何なのか?――4月9日に都内で開催された「みんなで選ぶ 薬局アワード」の“ファイナリスト”に選ばれた6薬局のプレゼンに、その答えを見つけたような気がする。


 薬局アワードは、「薬局って、どこも同じじゃないの?」と患者さんに言われてショックを受けた薬剤師の竹中孝行さんが「薬局の取り組みを世の中に知ってもらう」ために、元MRの中尾豊さんらに声をかけて一般社団法人 薬局支援協会を設立し、開催したイベントである。


 記念すべき第1回目となった今回は、エントリーした26薬局から厳選された6薬局がファイナルに挑んだ。


 最優秀賞を獲得したのは、「ヒルマ薬局小豆沢店」(東京都)。同薬局の比留間康二郎さんは「必要なのは『薬』じゃなくて『あなたの夢』ヒルマ薬局の挑戦!」についてプレゼンした。


 比留間さんはスタッフ一人ひとりと対話し、彼らの夢を聞いたという。そのなかで「フラワーアレンジメントを薬局でやりたい」というひとりの従業員の“夢”が、ひとりの“患者さんの夢”を実現することになった。


 その患者さんの旦那さんは認知症になってから暴言を吐くようになり、夫婦の間から笑顔が消えてしまった。だから「主人と笑顔で食事がしたい」という当たり前のことが、この患者さんにとっては夢のような存在になってしまっていた。


 比留間さんは患者さんからも夢を聞いていたのだ。この患者さんが持って帰ったフラワーアレンジメントを見て認知症の旦那様が「綺麗だな」と言って笑顔になったそうだ。その後、患者さん自身の状態もよくなり、薬が減ったという。


 審査員特別賞を受賞した「健やか薬局高野尾店」(三重県)は、「薬局に来る人が欲しいのは薬ではなく“健康”では?」という仮説のもと、管理栄養士を雇用し、栄養指導だけでなく、ソーシャルワーカーとともに在宅訪問も実施している。活動を通じて栄養指導だけでは何も変わらないと実感し、食事の宅配まで手掛けるようになったというから驚きだ。


 薬局アワードは、すべての参加者が6つのうち2つの薬局に投票できるしくみだったのだが、私は「ヒルマ薬局小豆沢店」と「健やか薬局高野尾店」に投票した。前者が最優秀賞に選ばれた理由は、“どこの薬局でも行うことができる”患者目線の取り組みだったからだと思う。


 薬局に来る患者さんが本当に欲しいのは何なのか? ぜひ、あなたも仲間と話し合ってほしい。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。