2017年度政府予算は3月27日、与党の賛成多数で成立した。


 97兆4,547億円という規模は過去最大。さらに、歳入の約30%を赤字国債で賄う火の車の状態が続いており、本来は消費増税を含む財源確保策や社会保障費の抑制など、財政再建論議が欠かせないところである。  しかし、予算を集中的に議論するはずの予算委員会はいわゆる「森友問題」に終始した。


 予算委員会で予算を議論しないのは民主党への政権交代以前から変わらない傾向だが、こんな本末転倒なことがなぜ起きるのか、その本当のワケについて政策決定システムをベースに考えてみよう。


◇予算委員会の審議事項は「予算」


「なぜディスカウントしたのか」「安倍晋三首相の意向を忖度したのではないか」――。衆参両院の予算委員会における審議は森友問題に終始した。


 この問題では、学校法人「森友学園」(大阪市)が開校を目指した小学校の敷地について、国有財産が格安な値段で売却された疑いが浮上。それに首相夫人が関与した可能性が論点となり、野党が安倍首相を執拗に追求したが、森とも問題が果たして予算委員会のテーマなのか疑問を持った人は多いのではないだろうか。


 ここで衆議院のホームページで予算委員会の位置付けを確認すると、国会法で定められた常任委員会の一つであり、所管事項は「予算」と短く書かれているに過ぎない。このため、予算に関する話であれば、何をテーマにしても良い。そして籠池問題は国有財産の売却が絡んでいるため、予算委員会の対象に位置付けることは不可能ではない。


 さらに、予算は国の基本方針を表わしており、政権のスタンスをただすという点では、政治家のスキャンダルや失言も予算委員会の対象にしても良いのかもしれない。実際、予算委員会で政治家のスキャンダルや失言などが話題になるのは風物詩であり、昨年は甘利明経済再生担当相(当時)の献金問題がクローズアップされた。


 これだけ国家財政が火の車のなかで、優先的に議論されるべき「予算」の重要事項とは思えないが、民進党を中心とした野党の体質や行動を批判するだけで十分とも思えない。


 確かに前の自民党政権時代も民主党(当時)は同じような対応を取っており、民主党政権時代の2011年2月21日の衆院予算委員会では民主党議員が「野党時代から『予算委員会なのになぜ政治と金の問題とかスキャンダルの追及ばかりやっているんだ』という批判を頂いてきた」と認める場面もあった。


 しかし、民主党政権時代に自民党も野党として同じ行動を取っていた。2011年3月11日に東日本大震災が起きた丁度その時、菅直人首相(当時)が外国人献金問題で追及を受けたことを記憶している人がいるかもしれないが、その舞台は参院予算委員会、質問者は自民党議員だった。


 つまり、予算委員会で予算を審議しない傾向は政権交代にかかわらず、大して変わっていないことになる。


◇事前審査制が生む国会審議の空洞化


 では、何でこうした状況が変わらないのだろうか。これには政策決定システムが影響している。


 学校の教科書っぽく説明すると、日本の政策決定システムは議院内閣制を採用しており、①内閣が決定した予算案や法案を国会に提出、②国会で与野党が審議、必要に応じて修正、③内閣が成立した予算や法律を執行―という段取りをたどるはずである。


 しかし、日本の政策決定システムは教科書的な説明と異なる。具体的には、(a)閣議決定される事項は全て各府省単位に設置された与党政調会の部会を経由、(b)部会決定事項を政調会で審議・決定、(c)政調会で決定した事項を総務会で審議・決定、(d)政府が閣議決定―というプロセスをたどる。例えば、医療・介護関係では介護保険の自己負担引き上げなどを盛り込んだ「地域包括ケアシステム強化法案」は2月7日に閣議決定→国会提出されたが、1月27日の自民党厚生労働部会で了承を得ている。


 つまり、政府の決定事項は必ず与党で事前に審査、了承される仕組みとなっている。これを一般的に「事前審査制」と呼ぶ。


 事前審査制は政府、与党の双方にメリットがある。まず、政府の視点で考えると、与党総務会の決定を経た時点で党議拘束がかかることで、与党内での反対意見は出にくくなるため、審議の予見可能性を高められるメリットがある。言い換えれば、国会対策の負担が減るのだ。一方、与党にとっても、野党に邪魔されず、与党の意思や考えを政府に反映することができる。さらに、政権与党の方針に反したり、選挙結果に悪影響をもたらしたりする政策が出てくれば、事前審査で止められるメリットもある。


 しかし、その結果として国会審議は空洞化する。特に、現在のように与党が衆参両院で過半数を得ている状況の場合、予算案や法案が国会に提出された時点で、与党の賛成多数で成立することがほぼ確実になる。そうなると、野党はいくら正論を述べたり、対案を出したりしたとしても、何の効果を持たない。むしろ、政府や与党のスキャンダルを暴くか、揚げ足を取ることを通じて、少しでも審議日程を遅らせることが野党の見せ場になる。  つまり、野党が予算委員会で予算を議論しないのは合理的な判断であり、それをもたらしている要因は事前審査制を中心とする政策決定システムにある。これを変えなければ予算委員会が予算審議の舞台になる機会は永遠に訪れないだろう。 


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 丘山 源(おかやま げん) 

大手メディアで政策形成プロセスを長く取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。