研究は査読のある専門誌に掲載されて初めてその存在を認められる。だが、それはまだ同じ分野の研究者内での話。SNS全盛の昨今でも、社会に研究成果の価値を知らしめる近道は、マスメディアに取り上げられることだろう。その意味で、「うまいなぁ」と座布団をあげたくなるのが京大の広報戦略だ。


◆研究者以外でも役立つ、研究成果発表「虎の巻」


 京大ウェブサイトのトップページを開くと「トピックス」の下位に「研究成果」のタブがあり、さまざまな分野での成果が公開されている。医学・医療関連のタイトルは、例えば以下のようなものだ。


●細菌によるコンドロイチン分解・吸収機構の実態解明―感染症に対する予防や治療薬の開発に期待―(2017年4月24日)


●母乳栄養児においてビフィズス菌優勢な腸内フローラが形成される仕組みの一端を解明(2017年4月7日)


●ギャンブル依存症の神経メカニズム―前頭葉の一部の活動や結合の低下でリスクの取り方の柔軟性に障害―(2017年4月5日)


 さらに個々の記事は、①成果に関する端的な記述(250字程度)、②掲載された専門誌と発行日、③研究者からのコメント、④概要と図表等、⑤詳細な内容に関するPDF、⑥ ②の書誌事項および原著等へのリンク、⑦マスメディアでの報道、という共通項目で構成されており、端的でキャッチーなタイトル、ウェブでさらっと通読できる概要、少し詳しい研究方法や結果を記したPDFという三段構えになっている。


 “構造化された”効果的な成果発表の陰には「学術研究支援室」の存在があるようで、研究成果をマスメディア向けにプレスリリースするときの懇切丁寧な「虎の巻」も準備されている。その内容には、なるほどと納得できるポイントが掲げられている。


・・・プレスリリース資料は「こんな成果が出ましたけど、記事のネタにどう?」といった、マスメディアの記者に向けた提案書


・・・研究者は正確さを重視しすぎる傾向が強い。読めばわかるを読者に求めてはダメ


・・・(プレスリリースは)論文とは順序が逆。最初に結論を述べて、簡潔明瞭に!


・・・ニュース記事になる必須となる「5W1H」を冒頭に揃える


・・・ニュース記事になる表現方法 写真・図表(理解を助ける) 用語説明 固有名詞・数字(説得力を増す) 「初」「最高」 認知度の高いものとの比較 「役に立つ」(社会における影響・評価を示す) 「おもしろい」(「へぇ~」と好奇心をかき立てるようなネタ) こうした指南と、IR法案との絡みでのタイムリーさからか、前述の「ギャンブル依存症」の研究成果は、一両日中に朝日、京都、産経、中日、日刊工業、毎日、読売の各紙と日経電子版、時事通信、NHKで報道された。


◆ランキングがすべてではないけれど


 英国の教育専門誌Times Higher Education(THE)が発表する最新(2016-2017年)の「世界大学ランキング」では東大が39位で京大が91位、「アジア大学ランキング」でも同7位と14位と、ここ数年での日本の凋落が報じられている。トップ大学だからこそ社会への貢献や発信力が問われる時代。オンライン公開授業「KyotoUx」(無料、英語)や「KYOTO U Research News」など、茶目っ気たっぷりのコンテンツを次々と公開している京大の奮闘に期待したい(玲)。