急きょ、大学病院担当MR向けに“地域包括ケア”をからめた講演をすることになった。いまだに「地域包括ケアは介護の話だろ?(つまり医薬品市場にはあまり関係ない)」と認識している製薬企業関係者が多いと感じているので、オファーしてくれた企業の大学担当MRのマインドをリフレーミング(これまでの見方・枠組みを変えることでポジティブにとらえること)させたいと思う。


 まず気になるのは、地域医療連携推進法人への参画だろう。岡山大学病院のメディカルセンター構想は、デモ活動が起こるほどの反発を受け、実現までの道のりは遠くなった感があるが、藤田保健衛生大病院は22施設で新法人「尾三会」を設立し、4月2日に愛知県から地域医療連携推進法人の認定を受けた。参加法人にはクリニックや特別養護老人ホーム、老人保健施設を運営する法人も含まれている。


「尾三会」以外に4月上旬に認定を受けたのは、一般社団法人備北メディカルネットワーク(広島県)、一般社団法人はりま姫路総合医療センター整備推進機構(兵庫県)、一般社団法人アンマ(鹿児島県)の3法人にとどまった。このうち、「はりま」は県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院が統合するまでの“中継ぎ”的な位置づけのようなので、実質3法人によるさみしいスタートになった。


 地域医療連携推進法人の設立はハードルが高いと感じる大学病院や急性期病院が多いことが、この4法人という少なさからもわかるが、“フォーミュラリー”(医薬品の採用品目リスト)の作成と地域への浸透は、同法人の何十倍、何百倍もの病院が取り組んでくることが予想される。


 このフォーミュラリーについては、『Monthlyミクス』の沼田佳之編集長も、5月13日に都内で開催されたMBA交流会「知恵の輪クラブ」の講演のなかで言及していた。まずは院内でルール化されたフォーミュラリーを、地域の医療機関や薬局にシェアしていくことが考えられる。財務省も「高価な医薬品が多く処方される現状にある生活習慣病治療薬等について処方ルールを設定し、保険給付の適正化を図っていくべきである」と指摘していることからも、遅くとも2020年度の改定では、フォーミュラリーの展開にインセンティブがつくのではないか。


 フォーミュラリーに限らず、地域包括ケアに貢献するさまざまな取り組みを主導し、地域のアウトカムを改善させることが大学病院の役割のひとつになる。 このような動きが活発化する今後は、ますます大学病院担当MRの役割は重要になるだろう。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。