コンビニエンスストア大手の大競争時代が始まった。セブン―イレブン・ジャパンを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスは流通王国、米国でシェアを拡大すべく、同業のコンビニチェーンの大型買収を実施。またユニー・ファミリーマートホールディングスは、親会社の伊藤忠商事と二人三脚で中国10万店構想の実現に動く。コンビニは国内ではすでに5万5000店を超えて出店は適格地が少なくなっているため、新天地を求めて船出するしかないが、先行きの航路は荒れる海であることは確かだ。


 セブン&アイHDは5月6日、米国の中堅コンビニエンスストア、スノコLP(テキサス州)からコンビニとガソリンスタンド計約1100店舗を取得すると発表した。


 今後、米国の子会社セブン―イレブンが、スノコのニューヨーク州、フロリダ州、テキサス州などで展開する店舗の約8割を取得。買収対象となる事業の16年12月期の営業収益は約8400億円、営業利益は112億円だ。


 セブンでは今回のスノコ買収をテコに、今後3年間、19年度までに全米に1万店、営業利益10億ドルを目標に掲げる。日本国内で蓄積した商品開発のノウハウや、効率のよいサプライチェーン、フランチャイズシステムを引っ提げて米国でもコンビニチェーンナンバーワンの地位を不動にする構想といえる。


 店舗数では16年12月現在の8563店から約1500店を上乗せになるし、さらに平均日販も4769ドルから5000ドルを目指し営業利益も現在の7億ドルから3億ドルを上乗せする格好だ。自社出店とM&A(合併・買収)を組み合わせながら、達成する計画だ。


 米国は中小のコンビニチェーンがひしめいており、国内で1万9000店と2万店近い店舗数を持つセブンだが、米国でのシェアはわずか5%。それでも1位の座を獲得している。逆にいえばそれだけM&A案件の余地があるともいえ、米国は非常にポテンシャルが高い市場ともいえる。


 今回のスノコ買収でセブンでは、サプライチェーンの効率化が図れることを強調した。コンビニのビジネスモデルは小型の店舗でドミナント(地域集中出店)形成で効率を上げるシステム。それゆえに、スノコの店舗を合算すると、例えばテキサス州でセブン単独だと約680店だが、スノコ店舗を合わせると約1230店となり、配送など商品供給の効率化が図れる。


 しかし、テキサス州といえば日本の国土面積の2倍近くはある広大な地域。それこそ、テキサス州の隣町まで行くのに100キロ、200キロはザラ。数時間かけトラックを走らせて到着するところも少なくないから物流で効率を上げるのは大変である。


 日本では2万店近くあり、各地でドミナント化が進んでいることから、それは配送や人材の募集、地域を特定した広告宣伝などで効率がよいことになるが、米国で本格的に効率を上げようとしたら、まだまだ店舗数も不十分だろう。


 米国で勝ち残っていくうえで、対峙しなければならないのは、やはりアマゾン・ドット・コムの存在だ。


 アマゾンがネット通販で扱っている商品とコンビニの店舗で扱っている商品はまともにはぶつからない。周知の通り、アマゾンは無人コンビニを計画している。アマゾンは「本気でコンビニをやるつもりではない」などと、現在はさまざまな憶測が飛び交うが、アマゾンコンビニの多店舗化も水面下で計画しているといわれ、仮に多店化に乗り出すとすればそれは脅威になる。


 しかし、米国ではアマゾン以上の難敵が潜んでいる。それはコンビニが未だに“ガソリンを給油するついでに立ち寄る店舗”という米消費者に組み込まれた意識だろう。 日本と違って車社会の米国では、かなりの比率で給油スタンドにコンビニが併設されているスタイル。米ウォルマート・ストアーズが巨大化していることからわかるように、日常の買い物はやはりスーパーに行く。そうした業態への意識を変えない限り、米国でコンビニが確固たる位置付けを獲得するのは難しい。


 米国はネット通販や店舗が日本よりも10年、20年進んでいるといわれる。そこで勝ち抜いていけるのか。米国のコンビニ戦略がセブンの今後成長を占うことになる。


 ユニー・ファミマは中国でナンバーワンを狙っている。ファミマの親会社、伊藤忠とタイの財閥、チヤロン・ポカパン(CP)グループとの折半出資会社が、中国の国有複合企業である中国中信集団(CITIC)の中核会社に1兆2000億円を出資して資本参加した。まさに人脈なくして何も動かないといわれる中国で強力な足掛かりを築いた。


 一部ではファミマとCITICで合弁会社を作り、中国本土で現在約1840店のコンビニを10万店まで引き上げるという遠大な計画も水面下で進められていると観測されている。なにしろ伊藤忠の相手先のCPグループはタイでセブン―イレブンを展開、大成功を収めている。中国に人脈があるこのCPグループの総帥が、コンビニを始めない手はない。


 大手コンビニ2社が米国と中国で進めるナンバーワンの地位を不動にする計画や、ナンバーワンを目指す構想。軌道に乗せたほうが、世界的な流通グループとして君臨することになるのは確かだ。しかし、米国は消費者の意識が変わるかどうか、また中国ではセブンやローソンも多店舗化の計画を打ち出しており、競争が激しい。それぞれナンバーワンの地位を築くには乗り越えなければならないハードルは少なくない。(原)