団塊の世代がこの世に別れを告げる頃には、年間死亡者数がピークを迎える。それまでに在宅と施設における看取りを増やさなければ、高齢者の死に場所がなくなる。だから、各都道府県の地域医療構想には、在宅医療の提供体制を2倍程度にしなければならないことが示されている。


 私がこの業界に入った20数年前。当時の厚生省は、年間20人の看取りをする診療所を1万件つくることを目指していた。しかし、在宅療養支援診療所(在支診)の届出数は伸びておらず、年間1人の看取りをする診療所がようやく1万軒を超えたくらいだろう。


 厚労省保険局の迫井正深医療課長は、5月27日に都内で開催された第1回全国在宅医療医歯薬連合会全国大会で講演し、「(届け出が伸び悩んでいる在支診以外の)一般の診療所に在宅医療への取り組みをお願いしたい」と述べた。他にも、診療所にはゲードキーパーではなく“ゲートオープナー”としての役割を期待しているという。ゲートオープナーとは、かかりつけ医として診ている患者に専門的な治療が必要と判断したら、適切な専門医療機関に導いてあげる役割だ。


 迫井課長は「2018年度の改定で決まっているのは遠隔診療の評価だけ」と話していたが、届出数が減少傾向に陥りそうな在支診の要件緩和と、在支診になれない診療所の在宅医療参加を促すために、さらなる評価を考えているに違いない。  在宅医療・介護の需要増に対応するには、訪問診療を行う医師を増やすだけでは不十分だ。今回の連合会でコラボした医歯薬だけではなく、“医歯薬看栄リケヘ”など、すべての従事者が「この患者さんが望んでいることに対して、自分ができること」という“カード”を各々の現場で出していくことが求められる。


 翌28日のシンポジウム「垂直連携について~在宅医療から見た課題~」では、歯科治療を受けた高齢の患者がしっかりと食べられるようになり、要介護2から要支援に改善。精神病薬も3→0種類になったことなどが紹介された。


 “超”多職種連携で患者の生活支援を中心にケアを進めていく時代に、製薬企業や医薬品卸は、どのようなカードを出すべきか。一番してはいけないことは“パス”(何もしない)である。 

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。