保守系の2誌が安倍政権に真っ向から立ち向かっている。加計学園問題をめぐり、前川喜平・前文科大臣の証言に光を当て、これを支えようとする週刊文春と、政権ベッタリの“御用記者”山口敬之氏がフリー記者の女性をレイプして、警視庁幹部がこれをもみ消した、とされる疑惑を追及する週刊新潮だ。


 両誌のスタンスは「あまりにもひどい個別事例」に限ったものかもしれないが、戦後日本の民主的諸制度を次々と有名無実化し、強弁や詭弁、詐術をもって批判を排除する現政権はもはや、“真っ当な保守”とはかけ離れた“異形の権力”である。両誌がもしハッキリとそう見定めてくれたなら、心強い。政権交代は困難でも、同じ自民党内に真っ当な指導者が現れて、政治を正常化してくれればいいのである。保守メディア・保守政界の自浄能力に期待したい。


 文春は『「加計スキャンダル」2大爆弾告白』という特集の1本で、『出会い系バー相手女性』という特集を掲載した。政権や読売新聞が前次官の人格を貶めようとして「出会い系バー」通いをしていた、と買春疑惑を喧伝したのに対し、実際に問題の店で前川氏と親しくなった女性客を突き止めてインタビューしたのだ。3年間で30~40回は会う機会を持ち、女友達も10人ほど紹介した、というこの26歳の女性によれば、「口説かれたこともないし、手をつないだことすらない。紹介した友達とも(男女関係は)絶対にない」という。


 そもそも、この人格攻撃は、前次官による政府内文書の証言とはまったく無関係な話であり、疑惑から目を逸らすための情報操作でしかないのだが、文春は敢えてそのネガティブキャンペーンの土俵に乗り、前川氏自身による「女性の貧困問題の実地調査のために出会い系バーに通った」という説明が、ウソ偽りなく事実だったことを裏付けてみせたのだ。この女性によれば、前川氏との会話は毎回、就職の悩みへのアドバイスなどが中心で、そんな教師のような前川氏の存在には、彼女の両親も絶大な信頼を寄せていたという。


 政権の誤りを正そうと証言する人物は、証言内容さえ事実なら、非の打ちどころのない人格者である必要はまったくない。だが、今回のケースについて言えば、この時代、稀有なほど誠実な人物を、卑劣なスキャンダル攻撃で葬ろうとした政権の醜悪さが、より一層際立つ格好になっている。


 週刊新潮の続報『検察審査会が動き出す 「安倍総理」ベッタリ記者の「準強姦疑惑」』は、山口敬之氏の準強姦疑惑について、被害女性「詩織さん」がその不起訴を不服として検察審査会に審査の申し立てをして、実名・顔出しで記者会見したことを受けた報道だ。


 この件では、山口氏の逮捕状まで用意されながら予定日の当日、警視庁の中村格・刑事部長(当時)の判断で、逮捕が見送られたことが前回、報じられているが、この中村という警察官僚は2年前、元経産官僚の古賀茂明氏がテレ朝『報道ステーション』で、イスラム国人質事件での政府の対応を批判して「I am not ABE」とコメントした際に、菅官房長官の秘書官というポストにいたこともわかっている。番組を見て怒り狂った中村氏は、番組編集長の留守電に立て続けに電話をかけ、あげくはショートメールで「古賀は万死に値する」などと猛抗議したと伝えられている。


 そして、あろうことかこの人物の現在の肩書きは、警視庁組織犯罪対策部長。共謀罪が成立した暁には、公安部門とともにこれを運用する立場になるのである。これほどまで政治的な立ち回りを厭わない警察官僚が、こんな権限を手にしてしまったら、いったいどうなってしまうのか。識者の間では、政府は共謀罪成立後、世論の批判をかわすために一定期間、その適用は抑制する、と予想されているが、さまざまに監視の目を強めて入手したキーマンのプライベート情報は今後、“前川潰し”のような謀略に絶大な威力を発揮するだろう。


 野党の非力があまりにも不甲斐ない昨今、頼みの綱はメディアであり、文春・新潮の踏ん張りである。その奮闘を願わざるを得ない。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。