経営の神様、P.F.ドラッカーが「金銭的な報奨が動機づけとなるのは、他の要因によって、働く人が責任を持つ用意ができているときだけである」と指摘しているように、インセンティブというのは機能するように設計しなければ、無駄になってしまう。  与えられた目標を達成しても、給料が減ってしまうような企業で働きたい人はいない。しかし、医療の世界では、理解できない仕組みが存在していた。


 その筆頭が、医療費や所得格差を全国レベルで調整して交付される「普通調整交付金」である。医療費が増えると配分が増える仕組みだから、各自治体が医療費を削減するインセンティブが働かなかった。


 6月2日に明らかになった「骨太の方針」の素案では、「国保の財政運営責任を都道府県が担うことになること等を踏まえ、都道府県のガバナンスを強化するとともに、アウトカム指標等による保険者努力支援制度、特別調整交付金等の配分によりインセンティブを強化する」と明記されている。


 保険者努力支援制度とは、適正かつ客観的な指標(後発医薬品使用割合・重症化予防の取り組み、地域包括ケアの推進等)に基づき、保険者としての努力を行う都道府県や市町村に対し支援金を交付することで、国保の財政基盤を強化する制度である。


 つまり、医療費削減に取り組めば、ポイントがもらえるというわけだ。素案には、「全保険者の特定健診・保健指導の実施率を2017年度実績から公表する」と書かれているが、地域包括ケアへの取り組みや重症化予防の成果も公表されることになるだろう。


 もうひとつ、2018年度のダブル改定の中で気になるのが、大病院の外来抑制と、かかりつけ医制度の普及だ。素案では、大病院の外来受診時の定額負担の対象を見直すことが示されている。対象拡大は、数年かけて200床以上まで進むだろう。一方で、かかりつけ医の点数を充実させることが期待される。


 しかし、大病院が外来を縮小することで、自院の病床利用率が悪化したり、かかりつけ医の点数を算定することで、診療所に患者が受診する回数が少なくなり、売り上げが減少するような制度設計では、医療機関は積極的に取り組まない。


 各制度に、ちゃんと機能するインセンティブがちりばめられれば、我々の顧客は改革を迫られることになる。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。