●患者の感じる「先発と同等」とは


 このシリーズでは医療費適正化への地域の取り組みとして、大阪府の後発医薬品(GE)使用促進の事業をテキストに考えていくことにしている。


 前回は、23年度達成を目指す「使用割合80%達成に向けて」と題されたロードマップを紹介した。今回はそれに応じて、2018年から19年度のモデル事業を概観していく。参考のため、ロードマップを最後に再掲しておく。


 筆者の勝手な整理だが、大阪府のGE使用促進事業は、①18年度からのモデル事業の19年度以降の府内全域への水平展開②主に高齢者にGE使用忌避率が高いことに着目した保険者との協働事業③八尾市で進められている地域フォーミュラリー作成を目標とした啓発事業-の3点に集約される。今回はこのうち、①について概括してみる。


 18年度から実施されたモデル事業は、岸和田市で行われた「薬局薬剤師の取り組み~薬局薬剤師の丁寧な説明」と、「患者が選んだGE見える化プロジェクト」と題された門真市・泉南地区の取り組みの2点。前者はお薬手帳を活用した薬剤師、医師、歯科医師の連携を主軸にしたもので、地域三師会の活動に重点が置かれたものだ。むろん、患者がお薬手帳を活用する課題も盛り込まれ、患者へのフォローアップも主題だ。これらのモデル事業を19年度から府内全体へ水平展開していくのが大阪府のチャレンジ。


 後者は患者へのフォローアップを積極化したもので、医師への情報フィードバック、利用頻度の大きいGEのリスト作成など、フォーミュラリーも意識した内容で進められてきたものだ。


●お薬手帳を活用しての三師会連携


 岸和田モデルからみていく。ここでの取り組みは、4つの柱で構成されている。第一は、「GEの説明用資材を用いて、丁寧に説明」すること。GEに疑問や不安を抱える患者に対し、説明用パネル3種類を用意、活用し、患者に寄り添った丁寧な説明を行うものだ。

 

 3種類のパネルは、品質編2種、経済編1種で構成され、品質編1では、有効成分や効果は「今までの薬(先発品)と同じ」であり、厚生労働省が承認していることを強調している。その厚生労働省の品質基準についても「厳しい審査」を強調する展開。品質編2はGEの生産現場の品質管理基準をアピールするもので、医療現場と製薬企業が定期的な情報交換をしているとも述べられている。


 パネルとしては文章が過多な印象のあるのが経済編で、GEとは何であるのかの説明の後に、新薬の特許期間、特に「新薬の特許期間が過ぎると、その権利は国民の共有財産となる」ことが重複して述べられる徹底ぶり。また新薬開発には9~17の歳月と数百億円以上の投資が必要なのに対し、GEは開発期間3~4年、費用は約1億円と述べる。


 さらに「GEに替えても、さほど安くならない……というあなたへ」と題されたパートでは、国民皆保険制度の堅持と医療費の「節約」に」役立つことを強調、15年後の医療費推計も示してGEで薬剤費を抑えることの重要性を示している。こうしたパネルを使って、GEへの切り替えを推奨するという流れをつくり、第2に「GE調剤後の服薬状況の確認」に進む。これは調剤後、患者へフォローアップすることにより、安心使用につながることが18年度事業で実証されたとしている。一定期間後に電話連絡や次回来局時にフォローアップを行うもので、19年度も継続されている。


 第3は、「お薬手帳を活用した三師会の情報共有」で、切り替えたGEの情報や患者に説明した内容をお薬手帳に記載し、医師・歯科医師へのフィードバックを行うもの。またお薬手帳に患者自身が服薬状況を記録することで、患者にも医療参画の意識付けをするとされている。


 第4がその発展形で、地域において三師会が連携し、GE使用促進やお薬手帳の活用に取り組んでいることを、ポスターを活用して患者に周知する一方、岸和田市民病院の医師に対して協力を依頼し、主に処方するGEの情報開示を求める内容となっている。これがGE変更後のフォローアップ調査と連動、服薬状況、切り替え品目、患者が納得した説明の要旨などの情報が得られることになる。


 このモデル事業で最も期待し、その効果を実証したいとの意欲がみられるのが、第3の「お薬手帳の活用」である。薬局薬剤師がお薬手帳に貼付するシールには、GEに変更した薬剤名と元の先発名を記し、先発と効果が同等、国民皆保険制度の維持、支払額、AGについて、剤型の工夫についてなど説明内容もチェックを入れ、薬剤師の意志として「私ならこちらを選びます」とのフレーズも説明内容に含まれるとしている。また、本人記入欄では、次回診察時に医師に診せるよう求めたうえで、きちんと服用できているか、GEを使って気になることはあるか、次回もGEを希望するか、他の医療機関の薬を服用しているかなどポリファーマシー対策も念頭に入れてある。


●大阪府全体なら切り替え効果は10億円試算も


 18年度に行われたもうひとつのモデル事業が、門真市と泉南地区で行われた「調剤の現場で~薬剤師からGEの丁寧な説明と調剤後の服薬状況の確認」。お薬手帳を活用して医師への情報提供を進めるなど、前述した岸和田モデルと大筋では目的も手段も似ているが、こちらは資材を使わず、より薬剤師の積極的な患者への寄り添いが求められること、フォローアップ調査票をつくって、実際に切り替えられたGEとその切り替え動機、そのリストの地域での情報共有などフォーミュラリーへの一歩を意識していることが特徴となっている。またそのフォローアップで切り替え患者数と薬事費用への効果反映も実績で示したのも関心を集めた。


 門真・泉南モデルの流れは、患者に薬剤師がGEへの変更意志があるかを確認し、希望する患者には変更対象となるGEの製品特徴を丁寧に説明し、どのような理由で患者がGEに変更することになったかをお薬手帳に記載し、1週間をめどに患者に服薬状況を確認する。そして変更後のフォローアップ調査票を作成し、「事業成果として」患者数と薬価の試算を示すことになる。


 門真市のモデル事業では18年10月中旬から11月まで130人の患者を対象に行われ、それによる薬価ベースでの年間切り替え効果額は1040万円と試算された。これは府内全域で行ったと仮定した場合の効果額は10億円とされている。また先発品への戻りを求めた患者が約10%に上ったこともわかった。


 9月から10月に473人の患者を対象に行われた泉南地区は、効果試算額は1462万円だった。こちらは「ほとんどの患者がGEを継続使用する回答した」と報告されているが、府内全域に水平展開した場合の試算は示されていない。


 また両地区で変更された薬剤数は泉南908品目、門真165品目。実施期間、対象患者数に違いはあるが、変更薬剤数は地域で大きな違いがあることも注目される。フォローアップ表の一部抜粋資料(16例・降圧剤)を見ると、患者がGEに変更した理由は、AGと支払額が減るためとの回答が多い。「先発と同等」の見方が、患者と専門家ではなお隔たりのあることが窺われる。このフォローアップ調査票は、繰り返しになるが将来的にはフォーミュラリーの原型になることが明らか。そこでAGが上位にくること、また明らかな支払額への反映がなければ先発への回帰も一定の幅で想定できる資料かもしれない。


 次回は保険者との連携について大阪府のトライアルをみてみる。(幸)