加計学園問題をきっかけに、報道各社が久々に政権批判の論調を強めている。木で鼻を括ったような対応しかしない菅官房長官の会見においても、しつこく食い下がる記者の質問が見られるようになった。


 週刊誌各誌も攻勢を強めている。週刊ポストは『【日本政界に漂う「不気味さ」の正体】 世論操作の詐術、それは小沢排除の成功体験から始まった 安倍官邸の「空気の研究」 国民はこうして洗脳されている』、週刊現代は『内心では「元上司」を応援しているけど、安倍と菅が怖くて口には出せない 「引き裂かれた文科省」 現役官僚たちの胸の内』、週刊朝日は『忖度や謀略の裏で“お友達”優遇 安倍官邸に巣くう加計学園人脈』といった具合である。


『驕るな!安倍首相 現職文科幹部が本誌に激白 「不満を持っている人は大勢いる」 読者調査では「前川喚問」賛成86% 内閣支持率22%』という特集を組んだのは、週刊文春だ。この記事によると、「答弁が上から目線過ぎる」と諫めたベテラン記者に対し、安倍首相は「わかっているんですけどね。支持率は下がっていませんから」と笑いながら答えたという。


 先に報じられた釜山総領事の更迭についても言及され、この総領事が知人との会食中、政権批判を漏らしたことが原因で、《政権寄りの新聞社が取材メモを官邸に持ち込ん》で問題化したのだという。加計学園問題で官邸からの圧力などあり得ない、と強弁するそばから露見した話であり、現政権の権力掌握術が垣間見える実例だが、問題はそこにメディアの加担が指摘されることだ。


 文春は『読売「御用新聞」という汚名』という記事も掲載し、前川・前文科事務次官の証言を潰すかのように、“出会い系バー問題”の中傷記事を掲載した読売に批判が集まっていることを報じている。この記事で読売の元社会部長は「(前川氏の出会い系バー通い)意外性はあるし、ニュースじゃないかな」などと古巣を擁護しているが、もしそんなふうに正気で思うなら、読売の腐敗は絶望的に根深い、と言わざるを得ない。


 この問題ではアエラも『読売報道に困惑の社員』と報じており、不買運動など予想以上の反発に、読売上層部にも動揺が見られるという。


 こういった戦列から一歩下がったスタンスにいるのは週刊新潮で、独自ネタである山口敬之氏のレイプ疑惑に関しては『準強姦「安倍首相」ベッタリ記者 「山口敬之」金満生活 家賃130万円 永田町ザ・キャピトルホテル東急』と続報を打つものの、加計問題全体に関しては『「安倍総理」を辞任させたい「麻生太郎」!』という距離を置いた記事を載せるだけだ。さすがにこの状況下、政権擁護には回らないものの、どこか他人事のような書き方をしている。


 それにしても、これほど傲慢な政権の姿勢にも、支持率がさして下がらない状況が不可思議だ。この点で、サンデー毎日への内田樹氏の寄稿『対米従属 国家の「漂流」と「政治的退廃」 この国の諸問題の根底にあるもの』に示された分析は、なかなか興味深い。


 内田氏は、日本国民に主権者としての意識がなく、自らの主権を制限しようとする政権をも支持してしまうのは、戦後の日米関係の歪みゆえのことだ、と主張する。指導者層が戦争体験者だった時代はまだ、「対米従属は対米自立のための戦術的迂回である」という意識があったものの、その意識さえ失われた現在は、「国家主権」であれ「国民主権」であれ、主権を問う議論そのものを無意味だ、とする価値観に毒されてしまった、というのである。そこまでの因果関係が言えるかどうかはわからないが、多くの国民の意識がいま、一種の“奴隷根性”に覆われてしまっていることは事実だと思う。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。