レストランを繁盛させるには、何が必要か――マイクロソフトで最もプレゼンがうまいと評価されている澤円さんは、6月10日に同社で開催された女子学生“夢”スピーチコンテスト関東大会に出場した女子学生たちに、こう問いかけた。


 学生たちは、メニューの豊富さやサービスのよさなどを挙げたが、不思議なことに“味”を挙げた学生はいなかった。味と立地でほぼ勝負が決まってしまうことは、グルメな読者ならよくご存じだろう。


 どんなに配膳のプロセス、サービスがよくても、味のコスパがよくなければ、二度とその店にはいかない。実際、私もメディアによく紹介される店に行って味にがっかりすることがある。おそらく、アマゾンからダウンロードしたと思われる私の著作の表紙をプリントしたティーバッグを渡されたときは感動したが、料理のクオリティが低かったので、それ以来もその店に行っていない。


 プレゼンにおいても、しゃべりの部分は“配膳”のパートに過ぎないと澤さんは指摘していた。“味”が悪ければプレゼンがうまくても聞き手の心に刺さることはない。勝負は、プレゼン前に決まっているというわけだ。


(医師側が感じる)MRとのコミュニケーションの時間が長いほど、当該医薬品の処方意向が高まる。この事実は、MR活動のデータを購入している製薬企業関係者にとっては周知のことである。しかし、多くの企業は、このシェア・オブ・ディテーリング(SOD:興味を持ってくれた時間の獲得度合)を高めるよりも、シェア・オブ・ボイス(SOV)のほうにフォーカスし続けてきたのではないだろうか。


 製薬協の田中徳雄常務理事が武田薬品の支店長時代に、部下のMRに医師との面談時間を計測させていたと、あるイベントで話していた。この考えは、SODを向上させることに役立つ。MRは医師と何分話したかと支店長に毎回聞かれるから、「なるべく長い時間を報告したい」という欲求が生まれる。医師と長く話すには、事前準備が必要だから、MRは必死に事前準備をする。その結果、SODが高まり、処方が増える。とても理にかなった指導方法だと思う。


“配膳”よりも“味”にフォーカスすれば、人気のレストランのように売上げが上がるはずだ。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。