「自分にはまったくストレスがない」……、という人は皆無だろう。 仕事上の責任、ノルマ、職場や家庭の人間関係、育児、介護、近所づきあい……。生活しているかぎり、多かれ少なかれ、何らかのストレスに直面するものだ。 人は過度のストレスにさらされると、不眠やめまいといった体に不具合が生じたり、怒る、悲しくなる、気分が落ち込むなど、感情に障害が出たりすることがある。


『ストレスのはなし』は、ストレスが生じるメカニズムや対処法、研究の歴史について、コンパクトにまとめた一冊だ。


 著者は冒頭で、ストレスを引き起こす「ストレッサー」を、刺激の強度、刺激のタイプ(単調か多様か、日常的か非日常的かなど)、プラスの刺激かマイナスの刺激か、刺激の増幅(感情による刺激の増幅や軽減)の4つの視点から解説していく。 この4つの視点から考えるだけで、さまざまなストレスに冷静に対処できそうだ。 昨今、さまざまな気分障害を「うつ病」と診断してしまう医師が増えている。この風潮に疑問を呈する精神科医も少なくないが、著者もそのひとり。ストレス障害に起因するうつ状態と、うつ病によるうつ状態を〈切り離して考える必要がある〉と主張する。 診断書をもらって会社を休むという点では、どちらに診断されても、患者も会社も大差ない。しかし、医療の観点からは〈症状の発現の仕方、病状の経過、予後、さらにはその治療のあり方にも違いがある〉。


〈うつ病は「治療を行う必要のある病気」〉であるのに対して、〈ストレス障害は「ストレスをうまくコントロールしなくてはならない障害」という発想を持つことが極めて大切〉なのだ。ちなみに、著者はうつ病とストレス障害の比率を1対9程度と見ているという。


■引きこもると確実に悪化


 ストレスへの対処法では、体調管理や食事のとり方、笑いの効用等々に触れる(ちなみに、賛否が分かれるアルコールに関して著者は“適度”ならOKというスタンス)。多くは納得感のある対処法だが、なかには意外感のあるものもあった。 例えば、〈刺激を避けない〉こと。ストレスがたまると「安静にする」「何もしない」ことを選択しがちだ。しかし、著者は直接のストレスに触れるのでなければ、〈まずは動くことが大切〉と刺激を受けることを勧める。〈弱気になって家に引きこもると、症状は確実に悪化〉するからだ。 ちなみに、〈辛いことでも(マイナス刺激であっても)別の刺激に切り替えることで、症状は緩和する〉という。確かに、ひとつのことでずっと思い悩むより、あれこれ頭を切り替えるほうが、気分は落ち込まない。 過度でなければ、ストレスは悪い面ばかりではない。


〈危機的状況に陥ったとき、精神的には恐怖心が生じる一方、多量のアドレナリンが分泌され、通常は抑制されている潜在的な能力や筋力が発揮されることがあります〉〈人はストレスを通じて成長しているといっても過言ではありません〉 ストレスとは、その中身をよく知って、上手にコントロールしていくべき存在なのかもしれない。(鎌)


<書籍データ>『ストレスのはなし』

福間詳著(中公新書800円+税)