「このハゲー、ちーがーうだーろー!」という叫びをテレビで何度となく聞きすぎて、四六時中、このフレーズが脳内に溢れ出すようになってしまった。国会閉幕後の政権批判は、いまやこんなお笑いネタめいた話にまで広がって、昨夏の舛添都知事バッシングを思い起こさせるどんちゃん騒ぎになりかけている。
もちろん強固な支持層を持つ安倍政権は、一朝一夕には揺らがないだろうし、問題の原点である“もり・かけ問題”をめぐる傲岸な姿勢は、批判されてしかるべきひどさだったとは思っている。第1次安倍政権の崩壊が、あの“絆創膏大臣”の映像とともに浮かぶことを思い起こせば、追い詰められた政権の姿は、常にこのようなコミカルな情景になるのかもしれない。それでも、ここまで「このハゲー」を繰り返し流されると、いったいことの本質が何だったのか、わけがわからなくなることも事実だ。
で、今週の各誌はこの“お祭り騒ぎ”にまた、燃料を投下した。週刊新潮は『美人代議士「金子恵美」総務政務官が公用車で保育園』という記事で、またしても自民2回生議員を批判。議員会館内にある保育園なので、出勤や帰宅途中に立ち寄るのはグレーゾーンとも言える話だが、同じ特集内にある『怪しい中国人女性を議員宿舎で囲ったアル中代議士「橋本英教」』のほうは、四六時中酒浸りの人物だそうで、さすがにこれはまずかろうと思う。あの事件の続報『「豊田真由子」の「絶叫暴力」未公開データ 40分中の最恐文言』は、秘書を罵倒するさらなる別バージョンの紹介だ。
週刊文春は『下村博文元文科相「加計学園から闇献金200万円」』というスクープを掲載した。下村氏はすでに会見で違法性を否定。200万円は計11人(社)からなる献金の合計で、法的に報告義務のある「ひとり20万円以上」に該当する人はいない。カネを取りまとめたのは加計学園だが、11人の中に加計学園は含まれない。11人の名前や金額の内訳は把握していない。といった何ともまぁ、都合のいい釈明である。 献金はパーティー券の購入だそうだが、政治資金収支報告書への記載は別として、誰にいくらパー券を買ってもらったか記録しない事務所など存在するのだろうか。記録がもしあるのなら、ほら、この通り、と見せれば済む話で、それをしないから、“もり・かけ疑惑”同様、疑念は強まるのだ。
週刊ポストも大特集を組んでいる。『安倍支持率急降下 隠された「真実」』。すでに各メディアは内閣支持率を発表し、軒並み低下傾向にあることが明かされているが、ポスト編集部は、毎日(36%)、朝日(41%)に比べ、政権寄りの読売と日経が49%と高めの数字が出ていることに着目。この2社の調査方法には、支持・不支持を明確に答えない対象者に「どちらかと言えば?」という“重ね聞き”をすることで、数字を加算するからくりがあるのだ、と説明している。
加計問題に関しては、政権におざなりな質問しかしない官邸記者クラブの忖度ぶりが問題視されているが、このポストの特集には『加計「新文書」をスクープしたNHK内部で「政治部VS社会部」が表面化!』という記事も載っている。『クローズアップ現代+』で社会部記者と政治部記者が同席し、加計文書をめぐって火花を散らす様子が流されたが、その背景が説明されている。
冒頭で少し触れたように、ワイドショーによるどんちゃん騒ぎには、些か“はしゃぎすぎ”の感を抱く私だが、考えてみれば何ヵ月か前までは、見苦しいほど腰の引けた“へたれ報道”ばかりだったことを思えば、ようやく報道が正常化しつつあると言える。この調子で各社頑張れば、次回の世界「報道の自由度ランキング」は久しぶりに上がるかもしれない。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。