選挙カーが候補者名を連呼して、1日中、窓の外を通り抜けてゆく。筆者はまた沖縄にいる。9日に市議選の投開票日を迎える那覇市の街頭はいま、選挙戦一色だ。知事選や国政選挙とは異なり、沖縄の市町村選挙では、政策や所属政党より、濃密な地縁血縁やキメ細かいドブ板活動がはるかにモノを言う。都議選のような国政の影響はなさそうに見える。 


 そんなわけで、よそ者の私にはいまひとつ興味が湧かない選挙だが、翁長知事を支える保守系の那覇市議会グループに、もはや一時期ほどの勢いはなく、その意味で、政府による水面下の工作は少しずつ、着実に進んでいる。 


「指摘は当たらない」「全く問題はない」「丁寧に説明をしてゆく」。過去無数に繰り返されてきた菅官房長官の紋切り型コメントが、結局のところ、コミュニケーションを拒絶する物言いでしかないことが、ここに来て、世間にようやく認知されてきた。そのことが、政権への逆風を生んだわけだが、同じように議論を遮断して進んでいる沖縄問題に関しては、世の関心が集まることはなく、今もなお、政府対応に改善の兆しはない。 


 さて、今週も各誌は政権批判の記事を競っている。週刊新潮は、『「豊田真由子代議士」のヤメ秘書匿名座談会』で絶叫女代議士の錯乱ぶりを今週も報じたほか、『「籠池理事長」だけではない 「加計学園」にも浮上する補助金詐欺疑惑』と銘打って、総工費192億円の半分が税金で賄われる獣医学部の建設費が、相場の倍額もの見積もりになっていることを暴いている。実際の建設費が計画の半分で収まってしまえば、全額公費で大学が造られる、というメチャクチャな話だ。 


『「官僚たちの夏」到来 安倍総理ベッタリ「山口敬之」を救った刑事部長と内閣情報官の栄達』という記事では、官邸の汚れ仕事を担ってきた警察官僚の栄転が報じられ、また先の都議選で大躍進を果たした都民ファーストについても、『観測史上最凶「小池ハリケーン」』『「遣い込み」「パワハラ」「遅刻常習」「大麻擁護」「小池チルドレン」というポンコツ議員一覧』という特集で、早くもその危うさを指摘している。 


 週刊文春も、都議選の衝撃を『首都壊滅 安倍首相に鉄槌!』で特集したほかに、『下村博文元文科相に新疑惑 「100万円献金」学校の依頼で特例ビザを口利き』というスクープで、前号に引き続き、下村氏を追撃している。また、芸能ネタにおいても『船越英一郎が松居一代に離婚調停全真相』という特ダネを掲載した。 


 気になったのは、文春の名物匿名コラム「新聞不信」の内容だ。複数の書き手が交替で書くこの欄は通常、文春編集部のスタンスよりリベラルな色合いが強いのだが、今週は「安倍憎いけりゃ都議選まで」というタイトルで、朝日の都議選報道が「国政への審判」という意識に“誘導”する煽り方が過ぎる、と批判している。 


 批判そのものは別に構わないのだが、このコラム子はあろうことか、「角度をつける」(記事を誇張する)という2014年朝日騒動の際の“流行語”を持ち出して、読売による前川・前文科次官への中傷報道と抱き合わせにする格好で「御用新聞か角度新聞か」と揶揄している。私は思わず目を疑った。新聞が政府の謀略に加担した疑惑が濃厚な「出会い系バー報道」は、戦後、数々のメディアで露見した誤報や虚報と比べても、度外れた犯罪的醜聞だ。もし、このコラム子にそうした認識がなく、朝日都議選報道の“偏向”と「どっちもどっち」と捉えているのなら、申し訳ないが、業界人としてその見識を疑う。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。