セブン&アイ・ホールディングスとアスクルの提携で、アマゾンのネットスーパー「アマゾンフレッシュ」との全面戦争の様相を呈してきた。コストばかりがかかり、儲けが薄いといわれ、しかもまだ市場規模が小さいネットスーパー。だが、今後はアマゾンの参入で一大市場に育つ可能性も指摘され始めている。
セブン&アイのイトーヨーカ堂が運営するネットスーパーは大手スーパーの同事業のなかでも唯一の黒字化を果たしている。今回のセブン&アイとアスクルの提携はそんな、将来の巨大市場をめぐりセブン&アイの商権防衛、アスクルの成長戦略で思惑が一致した結果といえ、アスクル対策に連合軍を組む格好だ。
今回の提携は物流拠点の火災で憔悴しきったアスクルに、セブン&アイが手を差し伸べて信用補完した美談のように報道されている。しかし、ある流通関係者は「何をかいわんや。周到なソロバンがあってのこと」と言って憚らない。提携のキッカケはアマゾンジャパンによる国内でのネットスーパー「アマゾンフレッシュ」の展開開始にあると言っていい。
アマゾンは日本でのアマゾンフレッシュの展開を2~3年前から検討を開始。地域の食品スーパーなどとの提携戦略を前提に複数のスーパーに秋波を送っていた。ただ、提携では利害の一致がみることができず、今年4月のスタート時では鮮魚は北辰水産、精肉は万世と組んで始めている。
スタート当初、一部地域にとどまっていたがジワリジワリと地域を拡大、現在では都内はほぼ全域、7月には横浜市など神奈川県の一部にも拡大している。
このアマゾンのネットスーパー拡大をおもしろからぬ目で見ていたのはイトーヨーカ堂だろう。ネットスーパーは低粗利益率の一般食品や日用雑貨ばかりを運んでいるため、配送費と人件費に利益が食われ、なかなか収益化しないと言われており、現在参入しているスーパーのほとんどが、利益が出ていないとみられている。
しかし、そうした中でヨーカ堂のみ、09年から黒字転換を果たしており、2016年2月期の売上高も前期比約10%増の468億円を売り上げているのだ。ヨーカ堂の実店舗の惨憺たる現状が伝えられる中にあって、ヨーカ堂の事業では唯一明るい。
ヨーカ堂は事業が軌道に乗ってきていることから、15年3月には従来の店舗でピックアップして宅配するスタイルに加え、ネットスーパーの受注専用店舗を都内に開業、サービスレベルの拡大、コストダウンを図ってきている。 アスクルとの突然の提携も、ヨーカ堂は現在のネットスーパー事業の防衛、さらにアスクルは未知の領域だった、生鮮食品の受注、宅配で成長戦略が描けるのだ。
とくにアスクルは主にオフィス向けの文具事務用品の宅配から、ヤフーと組んだ一般消費者向けの常温食品、日用雑貨などのネット通販である「ロハコ」事業の展開で、成長に弾みがついている。
ロハコは、あの大規模な火災があったにもかかわらず、18年5月期の業績見込みでは売上高は前期比16・6%増の455億円を予想している。伸び盛りの事業だ。
ロハコ事業とセブン&アイが展開するヨーカ堂のネットスーパーを含むネット事業である「オムニ7」で相互に送客するような仕組みを作れば、イトーヨーカ堂はネットスーパーで取り切れてなかった若年の顧客、アスクルは生鮮食品やアイテム数の増加が図れ、相互の補完関係が築けるのである。提携で11月から始める「IYフレッシュ」ではロハコの一般消費者向けの宅配ノウハウを活用する見通しだ。
しかもネットスーパーは物流の効率性と品ぞろえの幅、うまく粗利ミックスさせて販売するかがカギを握っており、ロハコの高利益商品とヨーカ堂のネットスーパー商品が組み合わされることで、粗利益率の改善が図れる可能性もある。
アマゾンフレッシュの展開は日本国内市場で、アマゾンがネットスーパーでも主導権を握れるかにかかっていると言っていい。現状の生鮮食品に加え、通常の約10万品目といわれるアマゾンのレギュラー商品を組み合わせれば、粗利益の低いネットスーパーの補完になる。アマゾン(鬼)に金棒を持たせるようなものである。
結局、セブン&アイもアスクルと組み、アマゾンと同じような品ぞろえの幅を出し、ネットスーパー、ひいてはネット通販を拡大させる狙いがある。今回はいたって補完関係の強い提携と言えるのだ。
セブン&アイがアスクルと組み、アマゾン対策に動き出したことで、現在ネットスーパーを展開する地域のスーパーなども今後、ジワリと影響を受ける。
ネットスーパーは地域性が強く、すぐに全面戦争にはならないが、近い将来、地方の各地にアマゾンが攻め込み、さらにヨーカ堂もグループ力を駆使して、場合によってはセブン―イレブン店舗を巻き込んでネットワークを広げて強化する可能性が大。セブン&アイとアスクルのような提携も頻発する。いよいよ、国内流通もアマゾンに背中を押される格好で、新しい領域に足を踏み入れることになりそうだ。(原)