「相互作用の研究は進んでいるが、あくまでも2剤の併用であり、3剤以上になると予測不可能な現状にある。現実の問題は複雑系で起きる」――。厚生労働省医薬・生活衛生局の佐藤大作安全対策課長は、7月22日に都内で開催されたJASDIフォーラム「地域包括ケアと医薬品情報~医薬品の適正使用における薬剤師とMRの役割~」で講演し、高齢者における医薬品適正使用の難しさを訴えた。
佐藤課長は、転院・棟や在宅医療への移行など、患者の状況変化に応じた情報共有が求められるとしたうえで、院内や在宅等の現場での医師を含めた多職種による横断的かつ一元的な高齢者薬物療法適正化チームの形成が必要であり、そこにMRがどのように関わっているのかを考えてほしいと語った。これまでのような企業からのプロモーション、情報提供が中心のアプローチから、副作用情報を含む情報収集を多職種の医療チームから収集する方向へのシフトが求められることを示唆した。
急性期病院→慢性期病院の勤務を経て、帝京大学ちば総合医療センター薬剤部課長になった飯塚雄次氏は、「最初の15年間の経験が慢性期病院ではまったく通用しないほど、急性期病院と慢性期病院にはギャップがあった」と述べ、使用医薬品の選択も慢性期では限られることを指摘した。例えば、経口抗凝固薬は急性期病院では「リバーロキサバン」15mg:545.60円が使用されるが、慢性期病院ではこれが9.60円の「ワーファリン」に変更される。糖尿病治療薬も「シタグリプチン」50mg:136.50円が「グリメピリド」1mg:17.10円になってしまう。この変化について飯塚氏は、「値段だけではなく、使用薬剤を替えることによる副作用も考慮する必要がある」と指摘し、リスクも考慮した適正使用の推進を求めた。
また、飯塚氏は「帝京ちば薬薬連絡会」などを通じて地域の薬局との薬薬連携を積極的に進めているが、その活動を通じて患者さんの生活を想像できる薬剤師が求められ、施設間の情報ギャップを埋める役割を製薬企業(MR)に期待していると述べた。 『One Patient Detailing実践ガイドブック』の著者である高橋洋明氏(Oncology MR Training Project主宰)も、佐藤課長、飯塚氏と同様の指摘をした。独自に現役MRを対象に行ったアンケート調査をもとに、「地域包括ケアシステムの構築及び在宅への患者さんの移行に伴い、今後は多職種連携を前提とした医薬品情報の提供や、副作用情報の収集が求められる」と語った。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。