研ファーマ・ブレーンは20年にわたってまとめている「2016年世界の医薬品メーカーランキング」及び世界の大型医薬品をまとめた「2016年世界の大型医薬品売上高ランキング」を公表した。これは各社が公表している決算の詳細に基づいて作成しており、メーカーランキングは医療用医薬品とワクチンの売上で、大型医薬品ランキングは「創薬したメーカーのオリジナルの製品が世界でいくらの売上となったか」を各社の売上合計からまとめたもの。今回は比較する意味で5年前の2011年のランキングも掲載した。 


■2016年世界の医薬品売上高ランキング(メーカーランキング)  


 このランキングは各社の決算発表資料や年次報告書等から医療用医薬品、ワクチン、ロイヤルティ等の売上げをまとめており、大衆薬(OTC)や動物薬、検査薬などを除外したもの。ただし、詳細非公表のメーカーは全売上高(表では38位のイタリア最大手のメナリーニ)。為替レートは年平均レートで、1ユーロは前年比▲0.4%の1.1056ドルであまり変わらないが、円は10.7%上昇して100円0.9188ドル(1ドル108.84円)となった。日本のメーカーは円で▲9.7%以上の減収でなければドル換算値は増えている。  次のメーカーランキングでは、世界の上位40社と20億ドル以上の日本のメーカーを示した。


  


 世界の大手を中心にいくつかのポイントをまとめると次の通り。 


◆世界で100億ドル以上の医薬品メーカーは2015年の21社から2016年は24社へ増加。 


◆1位ファイザー、2位ノバルティス、3位ロシュは2015年と同じ。


◆1位のファイザーは注射剤を中心としたジェネリックの大手ホスピーラの買収や前立腺がん薬イクスタンジを創製したメディベーションの買収により、8.3%増の482.59億ドルとなったが、過去最大だった2010年の585.23億ドルからは102億ドル以上減らしており、まだリピトール等のパテントクリフをカバーできていない。


◆2位ノバルティスは米国で2016年2月にグリベックのジェネリックが登場した影響が大きく、▲1.6%の427.06億ドルとなった。ノバルティスは2016年からアルコンの眼科薬を革新的医薬品事業(ブランド品)とサンド(ジェネリック)に移している。


◆3位ロシュ4.0%伸ばしたが、決算のスイスフランが▲2.6%と下落した影響でドルでは5億ドルあまり増やしただけで416.26億ドル。


メルクは免疫腫瘍薬キイトルーダやワクチン事業を伸ばして1.1%増の351.51億ドルで4位に上昇し、サノフィはワクチンや子会社ジェンザイムの製品を伸ばしたがプラビックスなどパテント切れの従来品の減少でトータルでは0.0%の横ばいで346.92億ドルとなり、メルクに抜かれて5位となった。


◆2015年には6位へ躍り出たギリアド・サイエンシズはC型肝炎薬市場の縮小で▲6.9%の303.90億ドルで7位となる一方、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)はステラーラやシンポニー、ザレルト(米国のみ)が好調で20億ドルあまり増えて346.92億ドルで6位となり、ギリアドと順位が入れ替わった。


◆8位のグラクソ・スミスクラインはポンドが▲11.2%と2ケタ下落した影響で決算のポンドでは16.2%も伸びたが、ドルでは3.2%増の286.29億ドル。この伸びは塩野義製薬が創製した抗HIV薬のテビケイとその配合剤トリーメクが大きく貢献した。


◆9位のアッヴィはトップ製品のヒュミラを伸ばしたほか、2015年3月に買収したファーマサイクリクスの白血病薬イムブルビカがフルに貢献して12.2%増の256.38億ドルでアストラゼネカを抜いた。


アストラゼネカは米国でスタチンのクレストールのジェネリック登場が大きく、欧米のネキシウムの減収も続いており、▲6.9%の230.02億ドルで10位となった。過去最大だった2011年の329.81億ドルからほぼ100億ドルを失っている。


◆11位アムジェンの順位は変わらず、ブリストル・マイヤーズスクイブが免疫腫瘍薬オプジーボを急増させて順位を2つ上げて14位となった。13位のテバ製薬工業Teva Pharmaceutical Industriesの和訳)は8月終わりにアクタビスを買収したが、伸びは7.9%増にとどまり、193.03億ドルで順位を1つ落とした。


◆ドイツのバイエルは抗凝固剤ザレルト(イグザレルト)やリジェネロン製薬(30位)から導入したアイリーア(米国以外)が好調で、大きなパテント切れもなく14.4%増の181.54億ドルで14位。米国のイーライ・リリーは7.7%伸ばしたものの、ブリストル・マイヤーズスクイブやバイエルに抜かれて15位の180.64億ドル。イーライ・リリーもピーク時2011年の226.08億ドルから45億ドル以上減らしている。


◆日本のメーカーでは、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共とも4%台の減収だが、円高でドル換算値は増え、アステラスがアラガンに抜かれて1つ順位を落としただけで、武田薬品、第一三共とも順位は変わらず。第一三共は米国でパテントが切れたARBのベニカー(オルメテック)のジェネリックが順調に流通せず、しばらくはブランド品やAG(オーソライズドジェネリック)が強かったために減収幅を抑えられた。現在はジェネリックが増えている。


ベーリンガー・インゲルハイムは米国のジェネリック子会社や低分子の受託製造子会社を売却し、トップ製品のスピリーバも2ケタ減少したが、プラダキサ(プラザキサ)や特発性肺線維症のオフェブなどを伸ばし、7.5%増の141.65億ドルで18位


アラガン19.5%増の132.39億ドルでアステラスを抜き、バイオジェンは日本でも発売したテクフィデラなどを伸ばしたが6.4%増の114.49億ドルで順位21位は変わらず。なお、バイオジェンは血友病薬イロクテイトやオルプロリクスを切り離し、バイオベラティブとして今年2月に分離上場させたため、2017年の売上げはその分(2016年売上げは合わせて8.5億ドル)が減る。 


◆22位のシャイアーは血液製剤大手のバクスアルタを買収して78.1%増の113.97億ドルで、順位を6つ上げた。


◆23位のセルジーンはトップ製品のレブリミド(レブラミド)やポマリストなどの多発性骨髄腫薬が米国の値上げを含めて好調で、21.3%増の112.29億ドルと伸びたが順位は同じ。


◆オランダ本社のマイラン17.5%と2ケタ伸ばして110.77億ドルとなったが、シャイアーとセルジーンに抜かれて順位は2つ下落して24位。


◆上位24社が100億ドル以上となったが25位の第一三共81.63億ドルで、90億ドル台、100億ドル台のメーカーがない。マイランと第一三共は29.1億ドルも開いており、26位の大塚ホールディングスは69.19億ドルで70億ドル台のメーカーもない。そのため2016年に25位以下のメーカーが100億ドル以上になることは当面ないだろう。


◆血液製剤の大手で27位のオーストラリアのCSL(CSLベーリング)はほかにメルクのガーダシルの製造特許の1つを持つなどワクチン事業もあり、2015年にノバルティスのインフルエンザワクチンを買収している。オーストラリアの企業は6月期決算が多くCSLもそうだが、1~12月で計算した数字を用いた。


 次に、比較する意味で2016年の5年前の「2011年の50億ドル以上のメーカーランキング」を示した。次の表でまとめた数字は2016年と同じ基準で集計したもの。 


  


 2011年に5位のロシュは2016年の売上げのほうが多いが、150億ドル以上の上位14社で見ると、2016年のほうが多いのはロシュ以外では8位のジョンソン&ジョンソン、10位のアボット・ラボラトリーズ(現在のブランド品はアッヴィで、アボットは新興国のジェネリックのみ)、13位のテバ製薬工業、14位のアムジェンの5社だけだった。つまり、低分子薬中心の世界的大手は2011年、2012年の過去最大のパテントクリフを5年経ってもカバーできていない。


 ■研究開発費(R&D費)ランキング


 次の表では研究開発費に50億ドル以上を投じた9社について、2011年の数字と比較した。 


  


 2016年の研究開発費はロシュがほぼ103億ドルでトップとなり、医薬品売上高(及びロイヤルティ)の24.7%を投じている。イーライ・リリーは29.0%の52.44億ドルを投じており、かつての主力品であるジプレキサやサインバルタの減収をカバーするべくバイオに力を入れ、抗がん剤のサイラムザや尋常性乾癬のトルツなどを発売しているが、まだ過去のピーク時に戻っていない。 


 R&D比率は低分子薬中心の世界的大手ではかつて16~17%が適正とも言われたが、ブランドメーカーが新薬を出せなければ売上げは減少する一方なので20%を超えるのが普通となっている。2016年にR&D費が10億ドルを超えたメーカーの平均R&D比率はジェネリック最大手のテバ製薬工業を含めて21.4%に達している。 


 世界最大手のファイザーは開発の人員を大幅に減らし、世界の大手CROへの開発委託を中心とすることでR&D比率を16.3%と上の表の上位9社では最も少なくしているほか、開発期間を短縮して自社では創薬や研究中心としている。  


■2016年世界の大型医薬品売上高ランキング 


 次の表は2016年の世界の大型医薬品売上高ランキングである。ここでは世界で30億ドル以上の上位33製品の売上高を示した。 


 


 この大型医薬品ランキングは、メーカー各社が公表している医薬品の売上げに基づき、創製したメーカーの売上げとロイヤルティ、それをライセンスしたメーカーの売上げを合計することにより、「オリジナルのメーカーが創製した医薬品が世界でどれだけの売上げを創り出したのか」という世界売上げを過去15年以上にわたってまとめているもの。ドル換算値は2016年の年平均レートで、表で製品名にアミを掛けたものはバイオ医薬品、一般名にアミを掛けたものは日本のメーカーの創製品、前期比ではマイナスの製品にアミを掛けた。 


 表にある33製品のうち14製品がバイオとなっており、世界の上位製品ではバイオの比率が高まっている。表にはないが毎年の推移をまとめている世界の上位50製品で見ると24製品がバイオであり、バイオ24製品の売上げ合計は50製品の合計2248億ドルの55.1%となり、初めて50%を超えた。したがって医薬品売上高が100億ドルを超えるような世界的大手で大型のバイオ医薬品がないとか一部に限られるというのは、それだけでも大型低分子薬のパテント切れに対するリスクが大きくなっている。かつての世界最大の製品であるリピトールや2位製品プラビックスの急減はご存じの通りであるが、日本では昨年ジェネリックが登場したメルクの気管支喘息薬シングレア(杏林製薬のキプレス)は2011年にメルクの売上げが54.8億ドルあったが、2013年には12.0億ドルまで減少し、パテント切れから2年と経たずにほぼ43億ドルが消えた。メルクは免疫チェックポイント阻害剤として最初のキイトルーダを米国で2014年に発売しているが、2016年は14.0億ドルで、このような画期的新薬でも2年で13.5億ドル増やしただけなので、2年で43億ドルが消えるような低分子薬が1つあれば、キイトルーダほどの新製品が3つあってもカバーできない。 


 表にある大型医薬品33製品のうち、日本のメーカーが創製したトップは小野薬品のオプジーボとなり、前期比323%増の47.29億ドルで17位に入った。2015年に日本発の大型品のトップは塩野義製薬創製のクレストールだったが、米国でジェネリックが登場したことで21位となり、2017年は30億ドル以上の製品から消える。もう1つ急増した日本のメーカー創製品は同じく塩野義製薬の抗HIV薬のテビケイ及びその配合剤のトリーメクで、2016年は84%増の43.21億ドルとなった。テビケイはインテグラーゼ阻害剤と呼ばれるクラスの2番手だが、最初のメルクのアイセントレスは1日2回製品で、これは患者が時々飲み忘れたりすると耐性ができて効かなくなることから、1日1回としたテビケイや配合剤のトリーメクは欧米で一挙に拡大した。 


 先の世界の医薬品メーカーランキングで示したように、塩野義製薬はクレストールのロイヤルティの急減をテビケイ等抗HIV薬のロイヤルティでカバーして2016年は世界で順位を1つ上げて45位となり、小野薬品工業はオプジーボの急増で22.49億ドルとなって2015年の世界68位から2016年は53位で順位を15も上げた。 


 また、上の表で多くの患者が利用する汎用品と言えるのは、9位の糖尿病薬ジャヌビア、13位のザレルト/イグザレルト、14位のリリカ、16位のアドエア、21位のクレストール、26位シムビコート、27位エリキュースに、29位のCOPD薬スピリーバを入れても8製品で、33製品のうちの4分の1に満たない。4分の3はそれほどMRが多く必要のない薬効であり、製薬業界で人員削減が相次いでいるのも当然と言える。R&D比率がかつての17%程度から大手の平均が21%ともなれば、販売管理費を中心にその分を減らすことになり、メーカーのマーケティングや財務構造も大きく変わる。スペシャルティ医薬品が中心となれば、専門性の高いMRが中心となり、流通に回す経費も減少することから、医薬品卸の粗利率は世界的に低下している。 


 2015年は医薬品業界の転換期としていたが、以上の医薬品メーカーランキングや大型医薬品売上高ランキングを見ても、2016年はすでに新しい方向へ進み始めた年と言える。 


<2016年世界の医薬品メーカーランキング/2016年大型医薬品売上高ランキングについて>  


「2016年世界の医薬品メーカーランキング」「2016年世界の大型医薬品売上高ランキング」についてさらなる詳細をまとめたデータは、「新ファルマ・フューチャー」2017年6-7月号No.7に掲載しています。メーカーランキングでは世界の3億ドル以上の137社、大型医薬品ランキングでは世界で3億ドル以上の360製品を表にまとめて分析しています。なお、これらのデータはすべて公表されている売上げを元に、研ファーマ・ブレーンが独自にまとめたもので、他社の調査データとは一切関係がございません。この情報誌についてのご案内は下記を参照下さい。 


「新ファルマ・フューチャー」2017年6-7月号 No.7 ランキング特集特別号 (目次の詳細も掲載しています) http://shop.risfax.co.jp/products/detail.php?product_id=426 


 研ファーマ・ブレーンが編集・発行する新ファルマ・フューチャーは隔月刊誌で、医薬経済社が発売しており、割安の年間定期ご購読もあります。


  トップページの「www.risfax.co.jp」からもリンクされています。 


<研ファーマ・ブレーンについて> 


 研ファーマ・ブレーン 代表 の永江研太郎は、元(株)ユート・ブレーン取締役。1996年、ユート・ブレーンより海外医薬品業界情報誌を創刊。1999年3月には厚生省(当時)から委託を受けた「先進諸国の医薬品産業及び医療環境について」(全340頁)の調査報告書をまとめており、20年以上にわたって海外の医薬品産業に関する調査・執筆・講演活動を行っており、毎年「海外医薬品市場セミナー」を開催してきた。 


 2016年5月に「研ファーマ・ブレーン」として独立し、海外医薬品情報誌「新ファルマ・フューチャー」を同6月末に創刊し、2017年6-7月号は第7号となる。新ファルマ・フューチャーを執筆・編集発行する傍ら、現在も大手製薬企業での講演や業界誌、経済誌等で執筆を行っている。 


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