健康食品や健康な食生活について書かれた本は多いが、『効かない健康食品 危ない自然・天然』は、健康食品や食事にまつわる、さまざまな誤解、勘違いを正してくれる好著だ。 


 毎度この手の本を取り上げると、同じ結論になるので、はじめに言っておくが、「多くの食品をバランスよく食べるのがよい」「体によい成分でも、大量に取るとリスクがある」は本書でも大切なポイントだ。  飽きっぽい性格のため“健康的”な食習慣が3日と続いたことはないが、まじめな人、継続が得意な人は注意したほうがいい。


 第1章では、健康食品を取り上げる。健康食品を製造する各社の広告や、ニュースリリースでは、健康食品やその成分の効果を強調したグラフや「特許取得」「○○大学名誉教授推薦」といったコピーが並ぶ。 


 少し知識があれば、「グラフのn数が少ないのでは?」とか「臨床試験はしてないでしょう?」とか突っ込みどころは満載なのだが、今も怪しげな情報はなくならない。 


 中小の販売会社はもちろんのこと、「なぜか見せしめに(摘発対象として)狙われるんですよ」(大手食品メーカーのプロモーション担当者)と大手も反省する様子はない。 


 トクホや栄養機能食品、機能性表示食品といった、一定の効果の表示が認められた健康食品もあるが、日本では〈表示を認められる水準が、諸外国の食品に対する判断と比べると甘い〉こともあり、海外で表示を許可されなかったケースもあるという。 


〈サプリメントより魚料理が効く〉〈黒酢は、被害事例が目立つ〉〈原材料、品質管理がずさん〉……。なんとなく予想はしていたものの、本書で現実や数値を突きつけられると、安易に健康食品に頼るのもリスクだとわかる。 


 第2章では、酵素ドリンク、グルテンフリー、遺伝子検査、オーガニック食品など、少し前から現在に至るまで〈意識高い系〉の人々の間でブームになった健康法について、その実態を紹介する。


 ブームになっては消えていく健康法だが、効かないだけならまだしも(それでもお金はかかる)、〈日本全国で健康被害が報告され、死亡例も〉ある。第1章で触れられているが、広く「二日酔いによい」と思われていたウコンですら、肝障害のリスクが取り沙汰されている。きちんとしたエビデンスがないものには、リスクがあるのである。 


 第3章では、〈自然・天然〉取り上げる。「オーガニック」という言葉は、「手間をかけて育てているだけに高級だが、安全・安心だ」という文脈で使われることが多い。 


 しかし、食べ物には、「絶対安全」「絶対危険」とは言えないものも多い。以前は普通に行われていた肉の生食、少し前に話題になった冷やしキュウリの食中毒、一見体によさそうに見えるひじきに含まれる無機ヒ素など、日本の食文化を踏まえつつ、さまざまな食品のリスクとどう向き合うか、考え方を提示する。 


■食品のイメージは本当か? 


 第4章、第5章では、さまざまな食品に対して多くの人が持つイメージを覆す。例えば「中国産食品は、品質や安全面で日本産より劣る」という印象を持つ人は多いだろう。逆に「地産地消」という言葉に良いイメージを持つ人は多い。食品添加物、遺伝子組み換え……。


 詳細は本書で確認してほしいが、われわれの“思い込み”は正しいのか、データや制度をもとに検証していく。 「多くの食品をバランスよく食べるのがよい」「体によい成分でも、大量に取るとリスクがある」――。 


 結局のところ、冒頭掲げた結論に戻ってしまうのだが、ウェブ上にあふれる、いかがわしい健康情報、サプリなど健康商品の広告の真贋を見抜くうえで、本書は非常に有用な一冊だ。 


 グルメ評論家などがことさら強調して、よく知られた「中華料理店シンドローム」のウソ、有機農法が必ずしも無農薬ではないこと、など小ネタも満載。“自分の常識”の土台の危うさを考える上でも一読しておきたい。(鎌)


<書籍データ>

効かない健康食品 危ない自然・天然

松永和紀著(光文社新書860円+税)