学会の学術大会を取材する時の悩みは、同じ時間帯に聞きたいプログラムが重複していることだ。“コピーロボット”が欲しいと思う瞬間だが、自分が選択したものがベストだったと信じるしかない。
週末は7月29日から私の地元・横浜で開催された第10回日本在宅薬学会学術大会を取材した。基調講演「これからの医療政策における薬局、薬剤師」を行った厚生労働省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は、急拡大した調剤市場について「伸びた分に対して、どれだけ医薬分業がよくなったのか。医療の質や経済的な面の貢献度を示せなければ(今後の改定で)厳しいことになる」と、参加した薬剤師たちにいきなり冷や水を浴びせた。
中山氏は、上田市薬剤師会の薬局における処方箋集中率が33%と全国の75%の半分以下であるデータを示しながら、地域包括ケアでは上田市の薬局の姿が理想的であることを示唆したうえで、薬薬連携に期待していると述べた。具体的には、▼入院時と退院時に病院薬剤師と薬局薬剤師が患者の情報を共有▼抗がん剤のレジメンや患者の検査値などを共有▼薬局側から処方医に情報をフィードバックする「トレーシングレポート」(服薬情報提供書)などを良い例として挙げた。
病院薬剤師と薬局薬剤師との連携については、午後に開催されたシンポジウムのなかで9割以上の薬局薬剤師が「病院薬剤師とあまり情報交換していない」と答えた衝撃のアンケート調査結果が紹介されたが、治療の継続性や医薬品の適正使用の観点から考えると、薬薬連携のつなぎ役になることをMRには期待したい。
また、薬剤師による在宅訪問については順調に伸びている反面、実施回数がゼロの薬局が60%も存在することから「伸びているというよりも、まだまだこれから」という印象を中山氏は述べた。
一方、「後発医薬品調剤体制加算」については、数量シェアの目標「2017年央に70%以上」が“未達”になったことから、「加算1(65%以上)は考えないといけない」と語り、次回の改定でハードルが厳しくなることを予想した。
さらに話題の“門内薬局”(敷地内薬局)については、「それを増やしたいわけではない。 医薬分業の理念を脅かすことは、自らを否定する行為だ。(敷地内薬局が増えれば)報酬を見直さなければならなくなる」と最近の動きを牽制した。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。