診療・介護報酬のダブル改定の印象が強すぎて、あまり医薬品業界では取り上げられていないが、国保改革も2018年度に起きる大きな変化だろう。


 市町村国保が都道府県化するだけでなく、医療費適正化等に積極的に取り組む保険者への財政支援を毎年約1700億円の規模で実施されることになる。


 なかでも注目したいのが「保険者努力支援制度」だ。同制度については、以前にも本コーナーで触れたが、▼後発医薬品使用割合▼重症化予防の取り組み▼地域包括ケアの推進――等に基づき、保険者としての努力を行う都道府県や市町村に対し支援金を交付することで、国保の財政基盤を強化する制度である。 


 2016年度の“前倒し分”として加点される項目で最も評価されたのが「糖尿病等の重症化予防の取り組みの実施状況」の40点である。「特定健診・特定保健指導の実施率、メタボリックシンドローム該当者及び予備群の減少率」は20点、「後発医薬品の使用促進に関する取り組みの実施状況」は、本来40点だったのだが、使用割合の把握方法が不十分なため暫定的に15点とされた。 


 気になる2016年度の前倒し分で最もポイントを稼いだのは、新潟県の184.87点、これに、長崎県(176.95点)、佐賀県(175.65点)などが続いている。一方、最低は秋田県の89.88点で、東京都(92.71点)、三重県(96.59点)も100点を下回った。平均は128.67点だった。


 重症化予防では、石川県、佐賀県、長崎県の3県が40点満点を獲得したが、青森県は唯一の0点となってしまった。40点を獲得するには、①対象者の抽出基準が明確であること、②かかりつけ医と連携した取り組みであること、③保健指導を実施する場合には専門職が取り組みに携わること、④事業の評価を実施すること、⑤取り組みの実施にあたり地域の実情に応じて各都道府県の糖尿病対策推進会議等との連携(各都道府県による対応策議論や取組内容の共有など)を図ること――の基準を全て満たす糖尿病性腎症重症化予防の取り組みを実施する必要がある。 


 この5項目に加え、“本番”の2018年度には、⑥受診勧奨を、全ての対象者に対して、文書の送付等により実施していること。また、実施後、対象者の受診の有無を確認し、受診がない者にはさらに面談等を実施していること、⑦保健指導を受け入れることを同意した全ての対象者に対して、面談、電話または個別通知を含む方法で実施していること。また、実施後、対象者のHbA1c、eGFR、尿蛋白等の検査結果を確認し、実施前後で評価していること――の2項目を新たに加え、さらなる充実を図るという。


 ちなみに、私が所属している木村情報技術の本社がある佐賀県は、「糖尿病コーディネート看護師」を制度化し、専門医療機関とかかりつけ医のつなぎ役にすることで、糖尿病腎症重症化予防の取り組みを充実させている。 


 保険者努力支援制度で高い得点を得る地域も、低い得点の地域も、何かしらの課題を抱えているはずだ。この変化をチャンスと捉えて戦略を考えてみよう。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。