メーカー系の専門店では現在、深刻な問題が浮上している。家電や化粧品、さらにいえば薬局・薬店などもそうだが、いわゆる高齢化の波が押し寄せ、後継者がいないという現実だ。家電業界はパナソニック(旧松下電器産業)、さらに化粧品でいえば資生堂やカネボウ化粧品、医薬品でも処方箋応需として機能している薬局なども少なくないが、大手メーカーとしては頭の痛い問題となっているようだ。 


 パナソニックの系列店はピーク時に全国に2万7000店あったが、現在では2万店を切っているし、化粧品専門店も全チャネル(販路)の売上高構成比の10%以下とみられ、メーカーにとってはそれほど重視せずとも済むチャネル(販路)の規模ではある。しかし、これまでメーカーの成長を支えてきたチャネルゆえに無下にはできない。メーカーにとっては悩ましい問題ではある。 


 パナソニックの系列店「パナソニックショップ」(旧ナショナルショップ)。故松下幸之助氏が水道哲学を掲げ、蛇口をひねれば水のごとく製品が流れるようにと、ナショナルショップを通じて製品も流通させるとして系列の家電店を設置していったのが始まりだ(かつてはナショナルショップと他社製品も扱うナショナル店会の2系列があったが、現在は一本化されている)。 


 モノ作りから流通までコントロールして一貫体制を敷くことで、強力な販売網を形成すると同時にブランド力、メーカーによる価格支配力を強めるのが目的だった。 


 しかし、経営の神様といわれた松下幸之助氏の理想も、安売りの家電量販店の出現であえなく崩れ去る。


 コジマ、ヤマダ電機、ケーズデンキ(現ケーズホールディングス)に代表される低価格のチェーン店に押され、パナソニックの系列の家電店も1店減り、2店減りしてピーク時に2万7000店あった系列店も現在は1万店以上減少している。


 ただ、系列店での売上高は、まだパナソニックの国内家電部門2割弱程度あるとみられており、チャネルとしても看過できない。 


 パナソニックは、これまでも系列店に対し手厚いリベートを支給して側面支援してきており、店舗数がピーク時から約1万店減ったとはいえ、まだ2万店近く残っており、国内家電売上高の2割も稼いでいる現状は立派だと言える。パナソニックによる製品を売るだけのチャネルから新業態開発や、アフターサービスに力を入れるなど、手を変え品を変えの支援が奏功している。しかし、如何ともしがたいのが、いわゆる後継者問題だ。


 パナソニックが取引のある系列店約8000~1万店を対象に後継者問題を調査したところ、経営者の平均年齢はすでに63歳に達し、今後5~10年のうちに事業承継の問題が浮上するというのだ。  調査対象となった店舗では、約2600人の経営者が商圏の引き継ぎ意向を示す一方、約3500人の経営者が商圏の引き受け意向を持っていることもわかった。 


 商圏の引き継ぎとは、後継者がいないから、自らが育てた商圏を誰かに譲りたいという意思表示だ。仮に1万人の経営者に調査をしたとしても、4分の1が事業承継の問題を抱えていることになる。 


 パナソニックではこの調査をベースに、全国を6ブロックに分けて後継者難の系列店同士の仲介、また事業承継コンサルタント会社と組み事業承継のタイプ別に「準備」「手順」「実行」の各段階別にマニュアルを作成し円滑な事業承継を支援する方針という。 


 一方、同じ系列専門店でも、これが化粧品の場合は、さらに深刻だ。家電店ならば高齢化社会でアフターサービスなど通じて製品を売り込むこともできる。しかし、化粧品は今や、チャネルがドラッグストアに移動してしまっているからだ。


 例えば資生堂の化粧品を扱う(化粧品専門店は、複数の大手メーカーの系列店になっていることも多い)店舗は98年の約2万5000店から、15年には約1万店まで減少しており、いまだに歯止めがかかっているとは言い難い状況だ。過去17年で半分以下まで減っている事態は家電店よりも深刻だ。 


 化粧品メーカーも系列専門店に対して美容部員の派遣や、実績を上げている店を対象に専用ブランドを開発。試供品、販促ツールの供給など手厚い支援を行ってきた。 


 しかし、最近ではドラッグストアでも化粧品を拡充し、専門の美容部員を育成して美容相談を受けるなど、化粧品専門店顔負けのサービスを行うところも増えており、系列専門店ならでは差別化戦略が打ち出しにくくなっている。


 市場調査会社の富士経済によると、2014年国内化粧品市場規模は2兆3500億円で前年比0.9%増と微増ながら増加した。しかしチャネル別ではドラッグストアが約6900億円と最大で1.5%伸びているのに対し、化粧品店、薬局・薬店というチャネルでは2235億円で同▲1.4と下落傾向が続いている。17年現在ではさらに売上高と店舗数が減少していることは確かだろう。 


 化粧品店と同じようなケースとしては薬局・薬店がある。ただ後継者問題があるにしても、化粧品店などと違って、薬価に守られた処方箋薬に対応できれば生き残ることができる可能性がある。 


 しかし、経済産業省によると、今後5年間で30万人以上の経営者が70歳となり、約6割が後継者が未定という。 


 メーカー自身、今後はチャネルの見極め、専門店政策がカギを握るのは間違いなく、商品や価格戦略の見直しも重要だ。かつて“流通”そのものだった、専門店はこれからどこに向かうのだろうか。(原)