「出身地ではなく、配属された地域のタウン誌等を読めば、地域の状況を知ることができる。しかし、そのような情報を読んで担当地域のことを知ろうとするMRは少ない。だから、営業所長などのライン長が、そのような情報の重要性をMRに語り続けなければならない」――。 


 ファイザーの梅田一郎社長は、8月20日に都内で開催されたイベント「地域包括ケア時代における医薬品の提供と情報の適切なあり方」(主催:一般社団法人日本医療コンコーダンス研究会)で講演し、同社が地域包括ケアの取り組みを模索するために実施している“Customer Facing2020”の考え方を説明した。 


 同社は東京都の立川市と包括連携協定を結び、市内の老人保健施設がどういったサービスを行っているのか、一目でわかる「マップづくり」を進めている(RISFAX2017.5.30)ほか、稲城市とも在宅医療・介護連携推進協議会にオブザーバーとして参加し、課題解決への提案や先進事例等の情報提供することの協定を2017年に締結した。


 この2つの連携は、2017年になっていきなり始めたように見えるが、梅田社長によると、「禁煙、受動喫煙防止対策、未成年の防煙対策などへの支援」では2013年の横浜市を皮切りに、埼玉県行田市、さいたま市、神奈川県川崎市、北海道函館市、札幌市などとすでに連携しており、「女性の健康寿命延伸のための取組」では、21都府県と連携していることを明らかにした。


 同社のほかには、エーザイ、武田薬品、アッヴィ、帝人ファーマから報告があったが、梅田社長のような“トップ”が出演していたのはファイザーだけであり、参加者の多くが「本音を話しているのは梅田社長だけ」と感じている様子だった。 


 ファイザーの地域包括医療推進部では、15の市区の▼市役所(高齢福祉課等)▼地域包括支援センター▽訪問看護ステーション▼老人ホーム▼在宅専門医――を訪問するなどして、製薬企業としての活動の可能性を検討していることを梅田社長は明らかにした。


 今後も多くの製薬企業が地域包括ケアに取り組むと思うが、MRに対して「地域包括ケアにコミットしろ」と指示するだけでは「それが売上げにつながるのか?」と現場から反発を受け、MRのモチベーションを下げるだけである。 


 なぜ、地域包括ケアにコミットしなければならないのか。それは、理想的な患者と薬の流れを実現させるためである。潜在的な骨粗鬆症や糖尿病の患者の掘り起し、重症患者の適切な紹介・逆紹介のタイミングを分析し、それが実現していないせいで取りこぼしている自社製品の売上げはどれくらいになるのか。そのギャップを埋めるのがMRの役割になるはずである。


 目的を示さずにMRに指示をするのは罪である。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。