《あえて言う。8月31日、オーストラリアとの「天王山」を迎える男子サッカーの日本代表はW杯出場に相応しい実力を備えていない》。合併号明けの週刊新潮で、そんな情け容赦ないリードが目を引いた。タイトルは『W杯どころか戦火の「イラク」「シリア」にも勝てない! 日本代表には再び「ドーハの悲劇」が必要か』。スポーツライター・加部究氏の記事である。
現在、予選グループBで首位を走り、6大会連続のW杯出場に王手をかけている日本代表だが、記事によれば、「残り1勝」のハードルはかなり高いらしい。この組では、サウジアラビアとオーストラリアが勝ち点1の差で2位と3位にいて、日本は両者との対戦を残している。万が一、3位になってしまえば、A組3位とのプレーオフ、さらに大陸間プレーオフがあり、韓国やアメリカが相手になる可能性もあるという。
ハリルホジッチ監督は「球際の闘い」と「攻撃の早さ」を強調してきたが、現在の代表ではこれが裏目に出て、《縦へ急ぐあまりタメの少ない単調な攻撃が目立つようになった》と加部氏は解説する。まるで、日刊ゲンダイばりの悲観的記事である。ただ、私のような代表戦オンリーの薄口ファンにしてみれば、こうやってスリリングな展開を予告されたほうが、俄然興味が湧く。中継の視聴率も上がるのではないか。
政治関係の記事はいささか中だるみだ。雑誌報道そのものというよりも、当方の気分がだれてしまっている。アンチ安倍政権のコラムニスト室井佑月氏の週刊朝日コラム「しがみつく女」の今週の文章に、似たような胸中が語られている。
室井氏は内閣改造へのコメントで、「いいんじゃないか」とある新聞に書き、友人たちに責められたという。「でも、しゃーない。以前よりはいいんだもん」。新防衛相の小野寺五典氏や新外相・河野太郎外相といった顔ぶれに、一定の安心感を覚えるのは、何よりも野党第1党・民進党に希望を持ち得ないためだ。迫りくる代表選に対しても「劇的な変化など起こりそうもない」と、テンションは上がらないらしい。同感である。
それでも各週刊誌は、新閣僚メンバーの“身体検査”など、政権への監視をきちんと続けている。とくに今週は新潮。『噓も再生する経済再生相!「茂木敏充大臣」の首が飛ぶ贈呈者リスト』という記事で、支援者に衆議院手帳を配りまくる茂木氏の公選法違反疑惑を暴き、『「今井絵理子」が溺れる「不倫市議」の怪しい政活費』とスクープの続報も怠らない。10月の衆院補選に関しても『安倍チルドレン「魔の一回生」が誕生する!「愛媛補選」自民党候補者のトラブルだらけの臍下三寸』と目配りをしている。
週刊ポストにも『ガソリン代1400万円 鈴木俊一・五輪担当相 政治資金年間600万円は「領収書なし」だった!』『安倍“沈没船”から読売も産経も逃げ始めた』という、政治家・政局ネタが載り、週刊朝日は『追い詰められた安倍首相の政治決断 加計学園の獣医学部新設 “白紙撤回”の公算大』と、加計問題を追い続けている。
個人的にこのお盆は、インパール作戦の特集などNスペの終戦モノに圧倒される日々だった。あの戦争の重みを思い起こし、改めてこの半年を振り返れば、グロテスクな森本学園の運動会風景や稲田朋美・前防衛相のお粗末さなど、“一気呵成に改憲”という“愛国的気運”の高まりは取りあえずクールダウンした。今後の動向はわからないが、政府・国民とも一旦頭を冷やす機会を得たことはよかったと感じている。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。