「NDBは患者が匿名化されており、分析上の制約があるため、アウトカムを検証しづらい。そのため、横浜では独自のYOMDB(Yokohama Original Medical Data Base)を構築して、EBPM(Evidence Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)に活用し、地域別の分析を行っていく」――。横浜市医療局長の増住敏彦氏は、9月1日に開催された「データサイエンスフォーラム」(主催:横浜市立大学)で講演し、横浜市として医療ビッグデータを活用していく考えを示した。


 同フォーラムは、18年4月の横浜市立大学データサイエンス学部開設を記念して実施されたもので、データサイエンスに注力している企業の担当者がパネルディスカッションに登壇した。 


 イオンドットコムの齊藤岳彦社長は、イオンが16年4月から展開している“地域エコシステム”について紹介した。「地域をよくしたい」と願う共通の志を持ったメンバーとイオンが、対等かつオープンなコミュニティを形成・協業し、「地域エコシステム」の構築に取り組むとしており、この考えは、まさに地域包括ケアシステムが目指す方向と同じだ。 齊藤社長は、地域エコシステムが生み出す新しい顧客体験として4つの取り組みを掲げた。


①デジタルゼーション:デジタリゼーションによるストレスフリーな体験・生活 


②モビリティ:地域内の交通、移動の進化 


③ヘルス&ウエルネス:身も心も豊かに暮らせるまちづくり 


④バリュー:地域経済・価値の拡大と還流


 ひとつの実践例として、広いショッピングモールを利用した「モールウォーキング」をお客さんにやってもらい、健診→モールウォーキング→健診という流れで改善度のデータを取っているという。もちろん、モールウォーキングに参加した人の購買データも取る。 


 齊藤社長は、「独居の高齢者などが集う場所をつくりたい。POSデータは店にあるデータしかわからず、発注するためのデータ的な役割だったが、ID-POS(顧客ID付きのPOS)でようやくお客さんのことがわかり、それぞれの趣味・嗜好を考えるようになってきた」と話した。 


 横浜DeNAベイスターズ経営・IT戦略部長の木村洋太氏の話も“ベイスターズファン”として興味深かった。


 TBSからベイスターズを買収した2011年当時、球団職員が自分の部署の“KPI”ばかり追っていたことに木村氏は驚いたという。そこには、ファンが何を求めているのか、どんなことに喜んでくれるのかという発想はなかったそうだ。その結果、373万人の横浜市民がいるにもかかわらず、2万9000人超しか収容できない横浜スタジアムに、平均して1万6000人程度の動員しかできていなかった。今は、平日でもチケットが取れず、転売サイトのチケットキャンプには常時1万枚以上のベイスターズ戦のチケットが出品されているほどだ。


 目の前のKPIではなく、顧客の思いに向き合って観客動員をほぼ倍増させた横浜DeNAベイスターズ。製薬企業も向き合うのは、KPIではなく、医療関係者や患者、さらには住民ではないだろうか。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。