「妻が出血していて倒れている。死んでいるかもしれない。早く救急車をよこしてほしい」――。日本語が読めるあなたなら、この電話をかけてきた人物の思いをすぐに理解できるはずだ。しかし、これが中国語だったら? ポルトガル語だったら? 緊迫していることはわかっても、何を言っているのか理解できないだろう。 


 この悩みを解決する“2者(3者)間電話通訳サービス”を提供している株式会社ブリックスの吉川健一社長と担当者を先日取材した。東京や愛知の有名病院を中心に約50病院が同サービスを利用しているほか、鉄道会社、通信キャリア、マンション管理会社などと契約しているという。 


 同サービスのプロセスはこうだ。①外国語を話す患者が来院する→②スタッフは専用番号に電話をする→③ブリックスの電話通訳者が電話に出る→④スタッフは患者と交互に電話を受け渡すかスピーカー機能を使用することによりコミュニケーションを取る。これが電話の場合でも可能にするのが3者間電話通訳サービスで、▼英語▼中国語▼韓国語▼ポルトガル語▼スペイン語――の5ヵ国語に24時間365日対応している。 


 患者・病院スタッフ・通訳の3者間のデモ映像を見せてもらったとき、このシステムをMR活動に応用できないだろうかと妄想した。 


 例えば、MRのディテーリングをLiveで本社に送信する。もしくは、録画した内容を上司や学術部門がチェックする。もちろん、相手の医師や薬剤師に許可を取らなければならないが、実現すれば日報を書く必要がなくなるのではないか。“ブラックボックス”のMR活動を見える化できるメリットが大きいが、一方で、薬の話をしないで売るMRの評価が難しくなる(笑)。MR側の反発も大きそうだ。 


 それなら、ブリックスのサービスと同様に、医師側がMRのiPadなどのデバイスを通じて、本社のMSLやプロマネを呼び出し、医師(薬剤師)+MR+プロマネ(MSL)の3者間でコミュニケーションを取れるようにしたらどうだろう。この仕組みなら、経験の浅いMRも、身近に生のやりとりを聞けるので“OJT”としても高い効果が期待できる。 


 いずれにしても、訪問規制などの逆境を打ち破るには、コミュニケーションの手法にイノベーションを起こさなければならない。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。