日替わりで目まぐるしく政治情勢が動き、週刊誌報道は当然のことながらその激震をフォローできていない。今度の総選挙をめぐる各誌のスタンスがある程度、見えてくるのは次週からのことになるだろう。 


 それにしても、安倍首相と小池都知事の間には、本当に「対立軸」など横たわっているのか、と素朴に疑問が湧く。「国難の突破」対「しがらみからの脱却」などと、空疎な争点を示されても、具体性は何もない。とどのつまり、小池氏が自民党に挑む理由は、彼女の個人的野心以外何もないように見えてしまうのだ。都知事選以来、彼女が強調する「透明性」にしても、都議選当選者に口を開かせない党運営スタイルで、その矛盾が曝された。関東大震災における朝鮮人虐殺の史実を否定するようなネトウヨ的歴史改竄主義のスタンスも露わになっている。 


 1990年代に小選挙区制度を導入した大義名分は、政権交代が可能な2大政党制の確立であった。その行き着く先が日本会議的タカ派2政党党首の人気投票でしかないのなら、これほど空しいことはない。ひょっとしたら“ポスト安倍”の時代には、小池新党のほうが自民党よりさらに右に行き、自民党が微妙な差で中道・リベラル寄りの勢力になることさえ、あり得るのだ。そして、2党から遠く離れた先にぽつんと共産党がある。その中間には事実上、選択肢が存在しなくなる。ある報道番組で、いつもは保守的なコメントしかしない解説者が「大政翼賛会」とまで口走ったのには驚いたが、要はそういう展開である。 


 こんな展開になったのは民進党が前原代表による事実上の新党合流提案を、満場一致で承認したためだ。情勢はこれで激変した。直前の段階でつくられた今週の週刊誌各誌はまだ、小池「希望の党」を鼻であしらうような記事が目立っている。


 週刊新潮の選挙特集タイトルは『嘘と恨みと私利私欲 落としたい「政治屋」』。小池新党の話題は18篇のワイド記事の1本に過ぎず、『金でバッジが買える 小池代表「希望の党」』と候補者がろくに揃わない現状を揶揄するものだった。


 文春もトップ記事は『自公連立キーマンに前代未聞のスキャンダル 公明復興副大臣が愛人と議員宿舎で「同棲生活」』というもので、長沢広明副大臣を議員辞職に追い込むスクープではあったが、雑誌発売日にはすでに民進党の新党合流で、すでに“過去の話”になってしまっていた。文春ならではの取材力・瞬発力によって、締め切りギリギリで「前原民進党との連携」にも触れた見開きの記事を突っ込んだが、そのタイトルは『「小池新党」に“希望”はあるか がらくた市 掃き溜め批判も』と新潮と似たテイストのものだった。 


 両誌より発売日が2日早い週刊朝日の内容も『小池新党の隠し玉は小泉純一郎氏との“脱原発”タッグ』という程度の話であり、『今こそ、史上最大規模の“民意”を! 「落選運動」 安倍・自民の「今なら勝てるから解散」を潰せ』という大特集を組んだポストに至っては、『「受け皿」は作れる、作りやすい!』という小見出しを付けた部分でも、小池新党に言及さえしていない。現代は『いざ10・22解散総選挙 全289選挙区 当落完全予測!』の中で、『小池新党の「風」を吹かす大物』という小見出しで、週刊朝日同様、小泉元首相をかつぐ可能性に触れるに留まっている。


 各誌、総じて安倍解散に批判的なトーンだが、民進合流の流れを受け、来週以降のスタンスがどのように変わるのか、変わらないのか。その反応が非常に興味深い。  


 ちなみに新潮は、『「安倍総理お友達」の準強姦は不問! 密室「検察審査会」は市民の良識だったか』と、自社スクープ記事だった元TBS記者山口敬之氏による「詩織さんレイプ疑惑」に対する検察審査会「不起訴相当」の判断を、リベラル誌ばりに批判する続報を掲載した。詩織さんによる民事訴訟の意向も報じている。この件では警視庁幹部が山口氏の逮捕予定日当日に、突如として逮捕状の執行取りやめを命じたことも明らかになっている。 


 民進党・前原代表は「どんな手段を使ってでも、安倍政権を終わらせなければ」と語っており、現政権のこうした腐敗ぶりを思い起こすと確かにその通りだと思うのだが、その代案が小池新党かと思うと、簡単には考えを整理できずにいる。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。