会員にならなければ過去の記事が読めないケースが多い毎日新聞のWEBサイトの中で、全文読める半年近く前の記事がある。


 2017年4月27日に掲載された「高齢がん患者 抗がん剤治療の効果調査へ 延命効果検証」だ。この記事では、「末期の肺がん患者の場合、75歳未満では明らかに『抗がん剤治療あり』の方が延命効果が高かったが、75歳以上では大きな差が出ないとの結果が出た」と指摘していた。 


 経済産業省の関係者も、ここ数年で盛んに「肺がんの医療費・調剤費は年間5000億円以上に上っているが、ステージⅡ以降の肺がんについては、治療効果が少ない。また、がんの種類にかかわらず、高齢者への治療の効果は大きく変化する」「治療効果が高い薬剤の研究開発を進める一方、患者本位の医療の推進や医療経済的観点から、既存の治療方法に対する費用対効果に関する評価・分析が必要」と、高齢者は“抗がん剤よりも緩和ケアに限定”というメッセージを講演の中で発し続けている。


 国が抗がん剤を高齢者に使わせない方向に誘導しているのは明らかだ。では、“高齢者に抗がん剤は効果なし”は本当なのか? 


 9月30日に都内で開催された「がん医療を一緒に考えるセミナー2017」(がん情報サイト「オンコロ」、西日本がん研究機構、日本肺癌学会など6団体による共催)では、この問いに国立がん研究センター中央病院呼吸器内科の後藤悌医師が答えた。 


 後藤医師は「高齢者にも抗がん剤は効果がある」と断言したうえで、4月に報道されたような大規模調査は存在してないことを指摘。「おそろしい記事」だと述べた。一方で、臨床試験に参加できるような“元気な”高齢者には、効果と副作用を考慮して投与する考えを示した反面、臨床試験と日常診療の乖離を指摘し、目の前の患者にその結果を適用できるかは別物だと述べた。 


 今後は、高齢患者の重症度等によって抗がん剤の投与を考慮する“最適使用推進ガイドライン”のようなものが議論されるのではないだろうか。 


 ほかにも、今回のセミナーでは、診療ガイドラインのつくり方、がんにおける新薬開発、がんの治験・臨床試験の探し方、がん患者団体からの意見など、One Patient Detailingに役立つ内容にあふれていた。このようなイベントにも、ぜひMRには足を運んでほしい。


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。