先週号各誌の締め切りのあと、民進・希望両党の事実上合流によって政権交代の可能性が一気に広がったが、それ以降、リベラル派排除や公認申請者への“踏み絵”など、合流に伴う陰湿な対応が新党の印象を悪化させ、これに反発した民進党・枝野副代表による立憲民主党の立ち上げが注目されるなど、週刊誌報道は相変わらず、日々の激動に振り回されている。
この乱気流の中、各誌のスタンスの取り方が気になったが、週刊文春が『小池百合子激白 「安倍の延命は許さない」』と題した記事を載せたのに対し、片や新潮は『小池百合子の希望・横暴・票泥棒』という特集で「あの人は女ヒトラーよ」とする山東昭子・自民党参議院議員の言葉を紹介してみせるなど、昨年の都知事選の際、親小池・反小池で分かれた両誌の立ち位置が引き継がれた格好に見える。
だが、記事をよく読むと、文春はとりあえず小池氏の単独取材をしているが、内容は必ずしも“べったり”ではなく、記事の結びでは《安倍一強の延命か、はたまた小池独裁の誕生か》と、距離を置いた書き方をしている。新潮も希望を叩くからといって、安倍政権を持ち上げるわけではない。
そしてまた、従来の両誌のトーンからすれば、最もターゲットになりやすい旧民進リベラル派の凋落についても、今回はあまりに前原執行部や小池サイドの“だまし討ち感”がえげつないことから、世間一般に広がる枝野氏や立憲民主党への同情的、判官びいき的なムードを慮ってか、文春・新潮ともその筆致に水に落ちた犬を叩くような底意地の悪さはない。もっとも、この「第三極」の取り上げ方については、あまりにも締め切り直前のドタバタだったことから、今週は様子見にとどめた、という可能性もある。
というわけで、両誌ともに小池旋風の勢いにやや陰りが見え始める前の段階での編集であり、いささか希望の党の実力を過大に位置づけている観はあるが、こうした中、文春は『10・22総選挙 全選挙区完全予測』という恒例の特集を組んでいる。希望の党1次公認の発表は発売日の前々日、立憲民主党は設立メンバー6人しか公にされてない時点であり、まさにギリギリの情報をもとにした情勢評価である。
それによれば、自民党の予測獲得議席は74減の214、公明党34人と合わせてかろうじて過半数を維持する、という見通しだ。野党第一党は希望で101議席、立憲民主は野党第二党で28議席となっている。
まぁ、この手の週刊誌の情勢記事はその昔、筆者が全国紙で選挙区担当をしていた時の記憶から言っても、極めていい加減なもので、個別の選挙区事情に詳しい人が見れば、首を傾げざるを得ないところが多々あるのが通例である。今回はとくにいつにない混乱で、現実には選挙戦突入後、各報道機関の情勢調査(世論調査)が出そろうまで、なかなか見通しは付けられないだろう。
現状での大勢は、一時はマックスに広がった希望の勢いが、その後、ボロボロの内情が露わになるに連れ、減退しつつあると思われるが、その減った分の票は果たして自公に戻るのか、“反安倍票”として立憲民主などに流れるのか、無党派層の動向は皆目まだわからない。
安倍政権の継続、ポスト安倍の自公政権、そこに希望が関わってくる新たな連立、といったところが、現実にありそうな結末である。希望の党+維新、あるいは立憲・社・共の野党共闘がそれぞれに過半数を取ることはどちらもないだろう。果たして自公が過半数割れとなった場合、野党2グループが手を組むウルトラCの展開もあり得るのだろうか。文字通り、一寸先は闇だと痛感する。
………………………………………………………………
三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。