「私たち製薬会社は、世界を変えるために何ができるのか。皆様のアイデアを教えてください」――。日経新聞WEB版の未来面「世界を変えよう。 」に、第一三共の真鍋淳社長の“課題”が紹介されている。 


 ひとりの患者さんに希望を与えるだけでも、世界を変えたことになると思うが、真鍋社長は“地球規模”の変化をイメージしているのだろう。 


 この記事を読んだ時、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)のことを思い浮かべた。UHC についてWHO(世界保健機関)は、「すべての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態」と定義している。 


 安倍晋三首相は2013年9月14日発行の『The Lancet』(2013 Sep14;382(9896):915-6) に“Japan’s strategy for global health diplomacy: why it matters”(日本の国際保健外交戦略:それが重要な理由)と題する論文を寄せ、UHCを“ジャパンブランド” にして、国際保健外交戦略に打って出たい考えを示している。


 2013年4月には、国際保健外交戦略の一環として、一般社団法人グローバルヘルス技術振興基金が設立されている。とくに開発途上国で蔓延するエイズ、結核やマラリア、「顧みられない熱帯病(NTDs)」等の感染症の制圧をめざすべく、国内の製薬企業からはエーザイ、アステラス製薬、塩野義製薬、第一三共、武田薬品の5社が参画した。現在は、富士フィルムと中外製薬の2社が新たなパートナーとして加わっている。


 去る10月7日に開催されたMBA交流会「知恵の輪クラブ」では、カンボジアとラオスに小児病院を設立し、看護師として子供たちの命を支えているフレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPANの赤尾和美代表が18年間に及ぶ国際医療の経験談を講演した。


 赤尾さんは講演の最後に国際医療のなかでめざす(してきた)こととして、「異文化と現状を十分に理解すること」を前提として、▼人材育成▼“やりたいこと”と“できること”の把握▼自己満足のための支援をしない――などを挙げ、相手のニーズが見えていないときにズレが生じると語り、それを防ぐために五感を研ぎ澄ます重要性を訴えた。


 製薬企業が途上国に無償で薬などを提供することにより、失われるはずだった命や健康的な時間を救うことができる。そのことによって、助けられた患者が近い将来、自社の生活習慣病薬や抗がん剤の“顧客”になるかもしれない。しかし、寿命を延ばしてあげたという“自己満足”だけでは、本当の支援にならないのではないかと赤尾さんの講演を聴きながら感じた。


 製薬協のサイトには、日本は50年以上前の1961年にUHCを実現したと書かれている。国民皆保険制度が創設された時だ。皮肉にも、途上国のUHCを支援している間に、日本には、UHCを維持できないほどの財政危機が訪れている。 「私たち製薬会社は、世界を変えるために何ができるのか」。ぜひ、MR一人ひとりに考えていただきたい。 


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。