激動の解散総選挙もいよいよ本番に突入した。が、ここに至る前哨戦が激しすぎたせいか、何となくすでにみな、疲れ切ってしまった感もある。何よりも公示後の11日から12日、各報道機関による序盤情勢調査(世論調査)が相次いで公表され、すったもんだのドタバタ劇の末、安倍首相が当初、「今なら勝てる」と踏んだ通り、自公両党の大勝という気配が色濃くなってきたことが大きい。


 毎度のことながら、週刊誌報道は半歩ずつ遅れている。過去3週を振り返れば、希望・民進の事実上合流が政界に激震を与えたとき、各誌の誌面には、若狭氏を中心とした希望の弱小政党ぶりが揶揄されていて、小池代表によるリベラル排除をきっかけに、そのインパクトがしぼみ始めた2週目になって、ようやく希望の党ブームが語られた。そして今週は、報道機関各社が自公の盤石さを確認したタイミングで、ブーム失速を共通認識としながらも、それでもまだ、過半数ギリギリまで自民が議席を失う見通しも論じられている。


 連休明けの公示日・10日発売の週刊朝日は『10・22「国盗り物語」 「小池不出馬」のシナリオを暴く』という特集で、《一時は政権交代も射程に収めたはずが、急速に失速し始めた》とする一方、《石破政権に向け軌道修正》と、まだ次期政権のカギを握る存在として希望を扱っている。同日発売のサンデー毎日は『「踏み絵」と「排除」の総選挙 東京からニッポンが見える!』という都民電話調査の特集で、『「希望の党」は失速、「立憲民主党」が躍進』と報じ、政権批判票の分散で自公が過半数を確保する見通しがあるものの、投票率によって結果は大きく変わってくる、とまとめている。 


 完全に“周回遅れ”になってしまったのは、変則的に11日発売となった現代で、『全選挙区当落最新調査 自民が54議席減』の特集で、『さよなら、安倍総理 あなたは長く居座りすぎた』とまでうたっている。希望84、立憲民主40の議席獲得を見込んだ結果予想だという。


 12日発売の文春・新潮はもう少しリアルだ。文春のトップは『小池みどりのタヌキの化けの皮を剥ぐ』、2本目が『希望の党「絶望」の候補リスト』。選挙全体の予想には言及していないが、《大政局がドッチラケになってしまった首班、ならぬ主犯はあの東京都知事だ。だが、この自爆劇は必然ではなかったのか。国民の期待を裏切り、希望を潰した小池百合子の「失敗の本質」》というリードで、間接的に野党敗北を匂わせている。


 新潮の特集タイトルはただひとこと、『傾国の「小池百合子」』。リードの文章は《与党は目下、ゴタゴタ続きの希望の党を傍目に、胸を撫で下ろしているかもしれない。ユリコの正体見たり、と。しかし、政界の渡り鳥である小池百合子氏(65)が、このまま羽を畳むとも思えず……》というもので、過去3週のドタバタを踏まえてのことだろう、断定的な物言いは避けている。


 さて、筆者はこの原稿を滞在中の沖縄で書いている。こちらでは、新設の高江ヘリパッド近くで11日夕に発生した米軍ヘリ墜落事故のニュースで大騒ぎだ。だからあれほど反対してきたのに……。多くの県民がそんな思いを燻らせている。辺野古問題での最高裁敗訴以来、沖縄では基地問題に対する無力感が広がっていて、前回総選挙では4選挙区すべてで自民党が敗れた総選挙でも、今回は2勝2敗くらいになるのでは、という観測がささやかれていた。しかし、突如発生したこの事態でまた、民意の行方はわからなくなった。 


 つい最近、会話した地元住民は、蔓延する「あきらめ」の雰囲気に言及した私に、「でも、すぐに事件事故が起こり、怒りが再燃する。沖縄はずっと、その繰り返しなんです」とつぶやいた。実際、事故はまた起きた。問題は極めてシンプルで、沖縄には基地が多すぎるのである。にもかかわらず、「気の毒だが、基地は沖縄から動かせない」と今朝もまた、東京のワイドショーキャスターが語っていた。ウソ八百、基地は九州にあっても抑止力は変わらない。多くの沖縄人はすでにそう学んでいる。本土への基地分散は、本土人のエゴによって阻まれているのだと。無神経な東京での報道も、現地の憤懣に油を注いでいる。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。