「“初期”のメンバーだけがモチベーションが高くても、2代目、3代目のメンバーの志が低ければ、どんなによいコミュニティをつくったとしても長続きしないんですよ」――。先日、私の地元横浜で開催された“地域力”に関するワークショップに参加した時に、町内会長などを経験したであろう高齢の参加者が熱く語った言葉である。


 ビジネスでは、1を10に成長させる人よりも、0から1を生み出す人のほうが、価値が高いという見方が多いが、地域包括ケアを構築するのは、0→1よりも1→0にしないような人材の確保が重要になるのではないだろうか。 


 筆者が取材した地域包括ケアの“成功事例”でも、一時の盛り上がりを失いつつあるという声を聞くことがある。冒頭の高齢者が指摘するように、やはり継続される仕組みづくりが重要なのであろう。 


 医療・介護関係者中心の多職種連携が地域包括ケアには不可欠だが、それ以上に自治体、もっと言えば、一般の住民によるコミットが継続性には求められる。そういう意味では、最近、一部の地域、特に神奈川県でよく耳にする「リビングラボ」のような取り組みが、地域包括ケアの構築にも役立つような気がする。 


 リビングラボとは、商品・サービス開発やまちづくりの課題解決に、住民と企業や自治体、大学等が連携して取り組む地域活動である。例えば、鎌倉市では2016年11月に住民や薬剤師、企業、大学が集まって座談会を開き、欧州の製薬企業が開発中の新パッケージを触ったり、普段の薬との関わりを話したという。


 鎌倉市によると、「従来から企業で行われてきた単なる商品テストとは一線を画すものであり、例えば、具体的な商品やサービスの開発が行われる前の段階で、住民が必要としているものをゼロベースで検討し、市民、大学、企業、行政など様々な人たちがアイディアを持ち寄り、サービスのプロトタイプを実際に使ってみながらディスカッションを繰り返すなど、試行錯誤しながらアイディアを具体的なサービスに育て上げ、新たな価値を創造するもの」だとリビングラボについて述べている。 


 地域包括ケアへの取組も、プロダクトアウト的なものではなく、健康な一般住民とのコラボレーションがポイントになってくる。製薬企業や医薬品卸には、各地域でリビングラボに取り組んでみることをおすすめしたい。  


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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。