シリーズ『くすりになったコーヒー』


 大腸癌患者がコーヒーを飲むと、そのコーヒー・ポリフェノールを癌細胞が利用して、癌が増悪する。国がん研などの発表によると、その可能性が高いと考えられるのです(第280話を参照)。この「抗酸化薬の癌増悪説」は、世界の有名医学誌のあちこちで物議を醸しているのです(詳しくは → こちら)。でも、ちょっと待ってください!


●前立腺癌はそうならなかったし(291話を参照)、大腸癌はどうなのか、検証が必要である。


「前立腺癌患者とコーヒー」には6つの研究があって、そのどれもが癌増悪説を否定する内容でした。コーヒーが前立腺癌患者の健康によい影響を及ぼすのです。しかし大腸癌の場合には、残念ながら研究例が少なくて、論文としては2つしかありません。それでも有難いことに、その1つは2010年に発表された日本人(宮城県コホート)対象の調査結果です(詳しくは → こちら)。この論文の数値をグラフ化すると図1のようになりました。




 1日1杯のコーヒーを毎日飲み続ける習慣が、男女ともに大腸癌の悪性化を予防して、死亡リスクを下げるのです。つまり、癌患者が抗酸化性の食事を摂っていると癌が増悪するという仮説は成り立ちません。少なくともこの論文では成り立っていません。


 次に、海外の論文を紹介します。2015年に米国ダナファーバー癌研究所が論文を発表しました(詳しくは → こちら)。これによりますと、どんな種類のコーヒーでも1日4杯以上を飲む群は、全く飲まない群と比べて、ハザード比が0.58まで軽減されました(図2を参照)。カフェインを含むコーヒーに限定すれば、0.48にまで下がります。どうやら癌の増悪を抑制しているのはカフェインである・・・と言えるようなデータです。しかし、カフェインがどうやって増悪を防ぐのか、それは未だ不明です。




 さて、大腸癌患者がコーヒーを飲むか飲まないか・・・ドッチにしようかと迷っていたら・・・筆者は「飲みたければ飲めばよい」と伝えます。大腸癌の論文はまだ2つしかありませんが、前回の前立腺癌の場合には6つありました。計8つです。どれもコーヒーは危険であるとは言っていません。論文の範囲内では「抗酸化薬は癌を増悪する」という仮説は成り立っていないのです。これは恐らく、仮説が正しいとしても、研究対象となった癌患者の癌細胞のなかにNrf2と呼ばれる抗酸化性転写因子が多くなかったからと考えられるのです。


●大腸癌患者がコーヒーを飲んで癌が増悪するということは考えにくい。当面は1日数杯までを目安として、美味しいコーヒーを飲むことは安全と言える。


【追記】


 さてさて2012年に、「抗酸化薬の癌増悪説」を唱えた研究者の皆さん、まだその説を信じていますか? Nrf2が多い癌患者や癌細胞を見分ける方法も教えて下さい。ほとんどの癌患者さんでは、そんなことないんじゃないでしょうか?いえいえ誰も皆さんを攻めているわけではないのです。プレスリリースなんぞを研究業績と認めて研究費配分の根拠とする・・・そう、そんな文科省にちょっと考えが足りなかっただけなのですから。


(第295話 完)


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