シリーズ『くすりになったコーヒー』


 中世イギリスの医者で、オックスフォード大学長兼王室侍医のウイリアム・ハーベーは痛風の持病もちで、年中発作に悩まされていたそうです。そんなハーベーさんが愛飲していたのはコーヒーで、発作の時には痛みを感じなくなるまで飲み続けたそうです。


●ウイリアム・ハーベーは「コーヒーは痛風、壊血病、浮腫病に効く」と書き残した(詳しくは → こちら



 この写真はコーヒーの功徳を書いた宣伝ビラですが、ロンドン初のコーヒーハウスが配っていたとのことで、今でも大英博物館に大事に保存されています。書いたのは無類の珈琲狂で、自らの通風をコーヒーで癒したと伝わっているほどの人物ですから、コーヒーの効き目については当代随一だったことは確かなことでしょう。赤字のgoutは痛風で、scurvyはビタミンC不足の壊血病、dropsyは栄養失調が原因の浮腫で死の病として恐れられていました。


 さて、それから350年が過ぎました。痛風の医学も大分進歩しましたし、予防薬も色々開発されました。コーヒーの疫学でも、尿酸値が下がるとか、発作の頻度が減るとのデータが増えつつあります。


●抗尿酸血症と関連する遺伝子として、GCKR(グルコース代謝)、ABCG2(尿酸輸送)、MLXIPL(グルコース代謝と脂肪合成)、およびCYP1A2(カフェイン代謝)が知られている。


そこで今回、40-69歳の被験者130,966人について、「コーヒーを飲む量と痛風リスクと遺伝子変異」の関係を調べてみました。わかったことは次の通りです(詳しくは → こちら)。


1. 毎日コーヒーを飲む人の痛風リスクは低かった:HR=0.75(p=0.0000001)。

2. CYP1A2とMLXIPLの変異が尿酸値を高めていた。

3. GCKRとABCG2の変異が 痛風の発作回数を高めていた。


 これらを総合すると、次のようにまとまります。


●痛風と関連する遺伝子に変異があるヒトは、コーヒーを飲む習慣をもたない傾向があり、飲む量が少ないと痛風のリスクが高まる。


 カフェインに例を取ると、CYP1A2 に変異がある人は、カフェインの代謝が遅いために、カフェインの効き目が長く続き、そのことがコーヒーを好きになれない理由となり、毎日ほとんどコーヒーを飲まない生活を送るため、痛風のリスクを下げるというコーヒーの恩恵にあやかれないことになるのです。


 ややこしいことはさて置き、世の中に出回っているコーヒーをもっと美味しくするとか、美味しく飲める淹れ方を工夫することで、コーヒー好きの数をもっと増やせれば、高尿酸血症で悩む人の数を減らすことができるというものです。


(第384話 完)


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