シリーズ『くすりになったコーヒー』


●転移しない癌は怖くない。


 なので、多数派医師の意見は「癌は早期に発見して手術する」と言うのです。尤もらしいご意見ですが、実はリスクもあるのです。実際に何人もの健康人が、間違った精密検査と間違った手術でお亡くなりになりました。それでも懲りずに先端医学は、「ディープ・ラーニングする人工知能」と称して、針先ほどの小さな癌を見つけようとしています。


●癌になることは避けられないが、なっても転移を防いで一緒に死を迎えよう。


 間違った検査死と間違った手術死ほどの無駄死には他にありません。癌の予防医学が求められる所以です。コーヒーは先頭集団の1つなので、美味しく飲みながら癌を予防できるかも知れない・・・と本気で思うようになりました。少なくとも発がんのリスクは下がるし、発癌しても転移のリスクは下がります。今日は癌転移を阻止するコーヒー成分の話ですが、先ずは疫学研究からのヒントとは?


●コーヒーを飲んでいる人は癌になっても死亡率は低い。


 そういう癌が確かにあります。データが多いのは前立腺癌で、コーヒーを多く飲んでいる人の前立腺癌死亡リスクは0.76に軽減されます(詳しくは → こちら)。


 論文の著者は「もっと調査が必要」と書いていますが、言いたいことは「コーヒーには癌を予防するだけでなく、癌細胞の転移を阻止する作用があるらしい」ということなのです。もしこの仮説が証明されれば、癌患者にとっては福音になります。


 ここで、筆者が現役時代に大学院生と一緒にトライした実験を紹介します。血管壁の人工モデル(マトリゲル)を使って癌細胞を培養するとき、培地にコーヒーの香を入れておくと、浸潤、つまり転移抑制が見られました(Organ Biology.Vol.15, pp57-64, 2008に論文発表)。図1はそのときのデータです。




 コーヒーの香成分で量が一番多いのはピラジン類で、種類もたくさん知られています。どれも飲めばピラジン酸に変化して、ニコチン酸受容体GPR109Aを刺激します。図1は、8種類のピラジン酸の実験結果。細胞がマトリゲルを通過して裏側に移動(浸潤)すれば、転移し易いことを示します。A〜Hのうち、Hの作用が最強で、高い濃度で作用が強まることもわかりました(右上のグラフ)。


●コーヒーの香成分は癌細胞の転移を抑制している(可能性がある)。


 ではここで、がんの転移について最新の話題を、絵に描いて紹介します(図2を参照)。




●まず第1に、原発巣から血中に出た癌細胞は血小板と結合して転移します(詳しくは → こちら)。


 この論文を読み込むのは難しいので、ネットの解説をご覧ください(詳しくは → こちら)。


 簡単に言いますと、血中に飛び出した癌細胞は、そのままだと異物なので、直ぐに排除されてしまいます。しかし血小板と結合すると自己となって生き残り、接着因子のある血管壁にくっつきます。すると内皮を通り抜けて組織に浸潤し、増殖して転移巣を作るのです。というわけで、「血小板を抑制すればよい」との考えが生まれたのです。そして世界中で、血小板抑制薬の新薬開発が始まりました。大袈裟ですが、コーヒーもその1つです(詳しくは → こちら)。


●第2に、血管には癌細胞と結合しやすい糖タンパク質(接着因子と呼ぶ)が色々あって、転移を誘導している。


 血管壁の接着因子が血液中の「癌細胞と血小板の接合体」を捕まえるのです。なかでも強力な接着因子はE-セレクチンで、この接着因子を抑制すると転移が防げるという考えが主流になりました。そして以前からコーヒー成分にもその可能性が指摘されていたのです(詳しくは → こちら)。


●コーヒーには、香り以外にも転移を阻止する成分が入っています。


 コーヒーを飲むとポリフェノールのクロロゲン酸からできてくるフェルラ酸は、血管壁の接着因子を少なくすることで、転移を抑制する(4つの論文が出ていますが省略)。クロロゲン酸は浅煎りコーヒーに多い成分で、ピラジン類は深煎りに多い成分です。両者に転移抑制作用があるならば、どんなコーヒーを飲んでも癌の転移を減らせる可能性が出てきます。


 以上は未だ仮説の段階です。臨床試験で確認された効き目ではありません。それでもコーヒーは安全な飲み物ですから、仮説を信じる人も信じない人も、コーヒー嫌いでないならば、


●毎日コーヒーを飲みましょう。


もう1度言いますが、「転移しない癌は怖くない」のです。


(第284話 完)


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