シリーズ『くすりになったコーヒー』


 違法な「コーヒー浣腸」のネット販売で起訴されていた販売業者社長に判決が下りました。薬機法違反の有罪でした(詳しくは → こちら)。


●コーヒー浣腸は薬ではない。


 にも拘らず「頑固な便秘に効く」などとの宣伝文句を勝手につけて許可なく販売したとのことです。文献によるとコーヒー浣腸の失敗で起こる健康上のリスクは2種類です。




 まず第1のリスクは急性カフェイン中毒。よく「コーヒーを飲むと気分が悪くなる」という人がいますが、カフェイン代謝酵素の遺伝子変異かも知れません。日本人に多く見て4人に1人の割合。たまたまそういう人が、「浣腸なら大丈夫」と聞かされてやってみたら・・・あっという間に急性カフェイン中毒に!!!


 急性カフェイン中毒の症状について。先ず第1に、頭が冴えて気分がよくなり仕事がはかどる・・・顔が赤くなって寒気を感じる・・・不安な気分になって食欲がなくなり・・・脱力感に襲われて手足が震えだす・・・血圧が上下し心拍数が増える・・・吐き気を催して熱が出る・・・幻覚が現われて脈が乱れる・・・体が痙攣して眠り込む・・・心臓が止まる。


 第2の症状は、浣腸に失敗して腸壁に傷がついたとき。普段は何でもない腸内菌(善玉も悪玉も)が血液に入って増殖する・・・全身感染が起こって敗血症(ゼプシス)になる・・・水分コントロールが難しくなって呼吸困難なほどに腹が腫れる・・・血液と体液の電解質異常が高じる・・・多臓器不全に近づく・・・眠気を感じやがて昏睡状態に陥る・・・心臓が止まる。


 実際に米国では、メキシコ旅行中の現地ホテルでコーヒー浣腸に興じた余り、帰国時に発熱して空港検疫でゼプシスと診断され、病院に搬送されても手遅れとなって死亡した・・・との症例が複数回発表されています。


 今回の事件の逮捕の切っ掛けは死亡事故ではなく、「無許可販売」だそうですが、日本国内で死者が出なかったことは不幸中の幸いと言えます。米国では上記の事故以外にも多数の報告が相次いだため、「Geason Resimen」と題した注意喚起警告論文が2010年に出ています(詳しくは → こちら)。


 Dr. Geasonはニューヨーク市の開業医で、1930年代に独自の理論に基づく肝臓癌の民間療法(菜食とコーヒー浣腸)を考案しました。彼自身の記録によると治癒率は70〜90%の高率でしたが、この数字がインチキであることは、米国立癌研究機関(NCI)やニューヨーク市医師会の検証によって証明されています。


 Dr. Geasonがコーヒー浣腸を考案した頃は、抗癌剤はほとんどありませんでした。しかし、20世紀後半になりますと副作用皆無ではありませんが効く人には効く薬が使えるようになりました。すると癌患者は浣腸ではなく抗癌剤を希望するようになり、Dr. Geasonの人気は影をひそめたかのようでした。


 再びコーヒー浣腸が話題になったのは1980年代で、効能は急増する米国型肥満者や重度便秘症患者を対象に、「ダイエットや美容のために便秘を解消する」となったのです。そしてネット販売の普及とともに売り上げを伸ばしはじめると、健康被害報告も増えたということです。


 皆さん、コーヒーは飲んで楽しむものであって、体内に直接注入するようなものではありません。カフェイン代謝酵素の欠乏している人がお試し心でやったとして、急性カフェイン中毒になるくらいが「落ち」です。


●講談社版「ケッコウケンコウ家族」・・・どうするんですか?


 このページ、Kindle版でも墨入れした方がいいんじゃあないでしょうか?YouTubeで流れてる宣伝ビデオ(7月7日現在視聴可)でも、有名女優、有名医師その他の内容は全部ウソですから・・・・出演された有名女優さんはその後お亡くなりになりました。コーヒー浣腸は百害あって一利なし!


(第282話 完)


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