シリーズ『くすりになったコーヒー』


 今日はイソップ物語みたいなお話です。「象の尻尾」を知らない人には念のため・・・昔のインドのお話ですが、盲目の人が集まって「象はどんな動物なのか?」と各自で触って確かめることになりました。すると尻尾を触った人が言うことには、「象って細長くて紐みたいだ」。何を言いたいかと言いますと、物事を一面だけから見ていると全体を間違って判断してしまうということです。




 さて、コーヒーのお話です。焙煎したコーヒー豆をペーパードリップで抽出すると、湯に溶ける成分だけが抽出されます。湯に溶ける成分の種類はどのくらいあるかというと、非常に多いということです。では薬理学的に意味のある成分はどのくらいあるでしょうか?こうなるとかなり具体的になってきます。


●1杯のコーヒーに1ミリグラム(mg)以上の量が入っている成分は、10〜20種類くらいはある。


 ここで1mgという基準を設けたことには理由です。1mgとは、現在売られている飲み薬の成分のなかで、最も少ない1回投与量に相当しています。飲み薬というものは「どんなに少なくても、1回に1mg以上を飲まないと、効かない」ものなのです。経験的ではありますが、「コーヒー1杯に1?以上入っている成分は何らかの薬理作用を示す可能性がある」とも言えます。癌を予防する成分もこの中に入っています。


●研究者はコーヒーの成分1つ1つについて薬理作用を調べている。


 その結果、コーヒー成分の1つ1つに何らかの薬理作用が見つかるのです。別の化合物が同じ作用を示すことも多々あります。その結果、成分Aの作用と成分Bの作用が合わさると強い効果になるというような例も見つかります。逆に互いに効果を消しあうような組み合わせも見つかります。何だかんだで結局次のようになるのです。


●癌を予防するコーヒーの成分は1つではない。


 癌だけではありません。コーヒーがリスクを下げる病気ならば、どんな病気の予防にも複数の成分が関わっています。それを1つ1つ実験で検証していると、関わっている成分の数はだんだん増えてしまいます。そして最後に10〜20成分が関わっているということになれば、「コーヒーを飲めば癌を予防できるが、コーヒーの成分を取り出して飲んでも予防できない」ということにもなるのです。


 もう1つ大事な話があります。


●コーヒーには互いに効果を消しあう成分の組み合わせが入っている。


 これは非常に難しい話です。「どうしてそうなるのか解らない」のです。しかし、似たような現象が漢方薬にも見られます。例えば葛根湯。最も多く使われている漢方薬なのですが、その処方のなかには、「体を冷やす葛根」と「体を温める麻黄と桂皮」が入っています。逆作用する成分の組み合わせが、冷えた体を温めて、かつ発熱を抑えるというのです。この現象を解るように説明できる薬理学はありません。そして、一般の人にとって漢方医の説明はもっと解り難いものです。


●コーヒーには発癌物質と制癌物質の両方が入っている。


 コーヒーはたった1つの植物の種子なのに、成分の処方と効き目は漢方薬にそっくりです。コーヒーの成分を1つだけ取り出してサプリメントを作ってみても、そんなものは「百害あって一利なし」のインチキ商品になってしまいます。


●コーヒーはコーヒーとして飲んだときにだけ癌の発生を予防する。


 では、そんなコーヒーを癌患者が飲んだらどうなるのでしょうか?抗酸化薬神話が癌を増悪するのでしょうか?それとも何かほかの力が隠れているのでしょうか?じっくり考察することといたします。


(第278話 完)


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