シリーズ『くすりになったコーヒー』


●コーヒー豆を氷点下で挽くと超細かくなる(詳しくは → こちら)。


 コーヒー豆をより細かく挽くことの利点は、抽出液の香りをよくすることと、香りのよい抽出液の量を増やすこと。つまり、美味しいコーヒーをより多く淹れるには、細かく挽いた豆でなければ駄目だそうです。超微粉末の経済効果は、抽出液の工場生産コストの抑制だそうです。家で自分で挽けばエスプレッソを極める棲ワザ間違いなし!?


 研究したのはマサチューセッツ工科大学など米英の大学とコーヒー・メーカー研究者たち。論文はサイエンティフィック・リサーチ誌に載りました。新技術とは、『コーヒー豆を氷点下に冷やして挽く』というもの。冷却コストを差し引いても、安くて美味しい抽出液の大量生産が可能だそうです。日本の缶コーヒー・メーカーにとってもビッグ・ニュースじゃないですか?


 この技術が凄ワザである証拠として、ネイチャー誌4月28日号の「研究ハイライト欄」に引用されているのを見れば納得です(原文のまま文末に引用)。では、論文に書いてない、新技術の健康問題を考察してみます。


●氷点下の豆を挽くと何故微粉末になるのか?


 どんなものでも温度を下げれば下げるほど凍りついて固くなる・・・だからガラスのように細かく砕ける。多少大雑把ではありますが、まあそんなところでしょうか。大事なのは、微粉末の直径がコーヒー豆の細胞の大きさと同じ位ということ。では、細かければ細かいほど薫り高く美味しくなるのは何故でしょうか?これを絵に描いて説明しましょう。




 まず図左上は焙煎豆カット面の電顕写真です。蜂の巣状のハニカム構造は細胞の跡で、生のときより大きく膨らんでいます。隔室の直径は大きいもので50マイクロメーター(μm:1mgの20分の1)、小さければ20μm(同50分の1)ぐらいです。この豆を普通に常温で挽いたとき、粉の直径で数段階に分かれます。粗挽き粉の平均直径は0.9mgほど、極細挽きでは0.4mgぐらいです。ですから粉の大きさは隔室の大きさより8倍以上も大きいのです。


●常温で挽いた粉は、いくら細かく挽いても、ほとんどの隔室は形状を保ったままでいる(図の左下は、極細挽きをイメージしています)。


 挽いても挽いてもほとんどの隔室は壊れていないのです。小さな隔室ほど壊れにくいので、割面に内容物が露出するのは大きな隔室と言えるのです。コーヒー粉末の内容物を全部溶かし出すには隔室の中まで湯を通さなければなりません。


 各室が壊れていれば、抽出時に湯が隔室の内容物を効率よく抽出してくれます。一方、隔室が残っていると、湯はゆっくりと浸みこむので、時間をかけて蒸らさないと上手く抽出できません。


 では氷点下に冷やした豆の場合です。論文によりますと微粒子の直径は15マイクロメーターで、隔室の大きさよりずっと小さいのです。ですからほとんどの細胞が壊れた状態になっています(図の右下を参照)。この状態なら、湯はあっという間に浸みこみますから、抽出効率が極限まで高まると云うわけです。しかし、そうなりますと、いい匂いの成分だけでなく、嫌な臭いのものとか雑味の成分まで溶け出すはずです。だから論文に書いてあるような「いいこと尽くめ」ではなさそうです。


 ま、それは兎も角として、粉が隔室より小さくなると、ドリップで抽出は一晩かけても無理でしょう。エスプレッソ風に圧を加えて抽出すれば、これまで味わったことのない味になっていることに間違いはないと思います。ですからエスプレッソ風に砂糖やミルクなど添加物を加えて飲めばよいのです。そんなコーヒーを一度は飲みたい気がします。でも、


●お気を付け下さい・・・氷点下挽きコーヒーには心臓に悪いジテルペンがテンコ盛りですよ!


もう何回も書いたように、コーヒーオイルにはカフェストールとカーウェオールという2つのジテルペンが解けています。新コーヒーを1杯飲めばコレステロール値と中性脂肪値が上昇するパワーがあります。だから毎日飲めば間違いなく高脂血症になりますよ。


 逆にカフェストールには癌転移を抑制する作用が見つかっているので、もしかするとそういう恩恵を受けられる人が居るかも知れません。ただしまだ臨床試験はありません。


●氷点下挽きコーヒーを飲むときは健康リスクがあることを知った上で飲みましょう。


 筆者としては、ネイチャー誌が健康問題に触れていない点にちょっとがっかりした次第です。


以下は、ネイチャー誌からの引用です。


RESEARCHHIGHLIGHT 28 April 2016/Vol.532/NATURE/417
Coffee Beans Grind Smaller
Roasted coffee beans that are ground when cold give smaller particles than those ground at room temperature, which could affect the drink’s flavour.
Christopher Hendon at the Massachusetts Institute of Technology in Cambridge and his colleagues ground coffee beans (grinding burr pictured) and measured particle size, comparing beans from four countries and also those from a single source that were kept at four different temperatures before grinding. They found that particle-size distribution was similar across beans from different parts of the world. But particles became smaller and more uniform in size as the temperature dropped, with the largest change occurring between room temperature and −19 °C.
Smaller and more uniformly sized coffee particles could release more flavour during brewing and might allow more coffee to be brewed from the same amount of grounds, the authors suggest.


(第276話 完)


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