シリーズ『くすりになったコーヒー』
前回も乳癌の肺転移について書きました。コーヒーのニコチン酸が関与して「コラーゲン生合成を阻害することで転移を抑制できるかも」というお話でした。論文はNature誌の4月号でしたが、今回は2月号の論文です。これほど短い期間に2つの似た論文が出るなんて珍しいことです。今回のコーヒー関与成分は、コーヒーオイルに溶けているジテルペン類の1つカウェオールです。
乳癌は肺に転移し易い…前回とは別のメカニズムが見つかりました(詳しくは → こちら)。
●乳房を離れて血中を流れる乳癌細胞は、好中球と接着してクラスターを作る(図1の四角内を参照)。
好中球はリンパ球の仲間で、盛んに遊走(アメーバ運動)しながら、体内に侵入する微生物を捕食して、感染症を予防しています。好中球を選択的に中性色素を使って染色すると、血液中の白血球の半数以上を占めていることが解ります。
図の左端をご覧ください。好中球が乳癌組織に留まっている癌細胞に接着したり捕食することはないようですが、一旦癌組織から離脱して血液に入った乳癌細胞(CTC)は、接着因子VCAM1を介して好中球にくっついてクラスターを作ります。このクラスターはIL-6などの炎症性物質を撒き散らしながら血流に乗って肺を目指すのです。
●エスプレッソに多く含まれているジテルペンのカウェオールがVCAM1の発現を抑制する(詳しくは → こちら)。
ということで、コーヒーを飲むと図1の四角の中に描いてあるVCAM1が働かなくなる、つまりクラスターができないというのです。もしできなければ、炎症性物質の放出も起こらず、何処であれ他臓器への乳癌転移は起こらないと思われます。
●首尾よくクラスターを作った乳癌細胞はやがて肺に到達する。
転移を邪魔するものがなければ、乳癌細胞は肺に新たな居場所を獲得して転移巣を作り始めます。しかし、もし患者がコーヒーを飲んでいれば、乳癌細胞の肺侵入を妨害できるかも知れません。その可能性を示す別の論文がありました。その論文によると、コーヒーの何らかの成分が働いて、乳癌細胞の肺への侵入を助長するE-セレクチンという接着因子が機能しなくなるというのです(詳しくは → こちら)。
さて、如何でしたか?以上は筆者の想像ですが、Nature誌の論文の中に、コーヒーの癌転移への介入が垣間見られることは想定外の喜びでした。これまでとは違うコーヒーへの期待感が膨らむというものです。
(第383話 完)
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